2026-05-16 14:30

山崎和佳奈さんと“蘭ねーちゃん”──その声が紡いだ『名探偵コナン』30年の軌跡

写真左から劇場版第1作『時計じかけの摩天楼』、劇場版第29作『ハイウェイの堕天使』
写真左から劇場版第1作『時計じかけの摩天楼』と劇場版第29作『ハイウェイの堕天使』©︎青山剛昌/小学館・読売テレビ・ユニバーサル ミュージック・小学館プロダクション・TMS/名探偵コナン製作委員会

5月15日、声優の山崎和佳奈さんが4月18日に逝去されていたことが、所属事務所の公式サイトを通じて発表された。

国民的アニメ『名探偵コナン』のヒロイン・毛利蘭を約30年にわたって演じるなど、数々の作品に声を吹き込んできた山崎さん。2月には病気療養のため活動休止が発表され、復帰を心待ちにする声も多く寄せられていた。そんな中での突然の訃報を受け、SNSでは悲しみの声が広がっている。

筆者も原作から作品を追い続けてきたコナンファンとして、アニメや劇場版で“蘭ねーちゃん”━━コナンの呼び方に敬意をこめて━━の声を聞いてきた。「コナンくん」と優しく語りかける声、「でーいやっ!」と得意の空手で犯人を打ちのめす気合のこもった声、「新一……」と会いたくても会えない恋人を思う切ない声━━これからもずっと聞きたかった。毛利蘭を通じて、山崎さんは様々な声とヒロイン像を見せてくれた。

山崎和佳奈さんが出演していた『名探偵コナン』シリーズ。劇場版最新作の『ハイウェイの堕天使』が4年連続となる興行収入100億円を突破するなど、長年にわたって多くのファンから愛され続けてきた。山崎和佳奈さんが演じる毛利蘭は、ヒロインとして作品に彩りを添えるという役割を越え、物語の中核を担うなど、作品に欠かせない存在感を放ってきた。また、2027年公開の次回作では、ファン待望の工藤新一×毛利蘭のラブロマンスが主軸になることが、毎年恒例の映画本編終了後の告知で明かされていた。すれ違いを繰り返し、そして結ばれた2人の恋仲の新たな展開を、多くのファンが楽しみにしていた。今回の知らせに対して、これほど多くの悲しみの声が上がっているのは、そうした背景も無縁ではないだろう。

振り返ると、1997年公開の劇場版第1作目『時計じかけの摩天楼』では、山崎さん演じる蘭のヒロインとしての魅力を決定づける名演があった。クライマックスで蘭は、蝶ネクタイ型変声機で新一の声になったコナンの指示を受けながら、犯人が仕掛けた爆弾を解除しようとする。最後に残ったのは赤と青のコード。蘭が「新一の好きな色が赤」「わたしも新一も、ラッキーカラーは赤なの」と話しているのを聞いていた犯人は、彼女が赤を選ぶと予想していた。ところが蘭は青を選び、九死に一生を得る。コナンに理由を聞かれた蘭は「だって、切りたくなかったんだもん。赤い糸は…新一と繋がってるかもしれないでしょ?」と答えていた。爆弾のコードを運命の赤い糸に重ね、決して切ろうとしなかった蘭。そして一言は毛利蘭という人物の輪郭を刻み、ヒロイン伝説の始まりを印象づける名場面だった。

『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』©︎1997 青山剛昌/小学館・読売テレビ・ユニバーサル ミュージック・小学館プロダクション・TMS

高校生ヒロインとして、小学1年生のコナンや少年探偵団(コナンの同級生たちによる探偵団)の面倒を優しく見る一方、父・毛利小五郎が鼻の下を伸ばそうものなら「お父さん!」と叱りつける強気な一面もあった。この「お父さん」の一言だけでも、呆れを滲ませた言い方から、「おと~さ~ん(怒)」と拳を握り締めたような本気の怒りまで、様々なバリエーションで蘭の人間味を鮮やかに映し出していた。

そんな蘭が最も怒りをあらわにするのは、子供たちや親友の鈴木園子を傷つけた犯人に、得意の空手を容赦なくお見舞いするシーンだ。その際の「でーいやっ!」や「どぅ!」といった腹の底から出る力強い声もまた、蘭の大きな魅力だった。守りたくなるヒロインと戦うヒロイン━━その両面を山崎さんは完璧に演じ分けていた。声や口調が荒々しくなっても、蘭らしさは決して失われない。それは殺陣や中国拳法などアクションを習っていた山崎さんの、真摯な役作りの賜物だった。

2027年公開予定の作品で30作目となる劇場版『名探偵コナン』シリーズ。長きにわたって作品が続く中で、初期から作品を支えてきた声優陣に変化が起きることは、避けて通れない現実でもある。たとえば『ONE PIECE』では麦わらの一味のフランキー役が、約20年務めた八尾一樹さんから木村昴さんへと受け継がれた。『名探偵コナン』でも『ハイウェイの堕天使』のメインキャラクター・萩原千速役を、2024年に亡くなられた田中敦子さんの後任として沢城みゆきさんが演じ、魂のこもった声を届けてくれた。山崎さんの休養発表後、アニメでは岡村明美さんが代役を務めており、今後は岡村さんが正式に後任を担うことも発表されている。

現在公開中の『ハイウェイの堕天使』では、山崎さんが演じた毛利蘭の声が刻まれている。スクリーンの中だけではない。30年以上にわたって続いてきたアニメの中でも、コナンファンそれぞれにとって忘れられない毛利蘭のシーンがあるはずだ。優しい声も、力強い声も、お化けに怖がる可愛らしい声も━━そのすべてがファンの記憶に刻みこまれている。そしてきっと、多くのコナンファンが原作を読むとき、そのセリフには山崎さん演じる毛利蘭の声が重なるだろう。声は引き継がれ、毛利蘭というキャラクターはこれからも物語の中で歩みを続ける。だが、30年にわたって命を吹き込み続けた山崎さんの声は失われることなく、作品の中に、そして多くの人の記憶の中で生き続けていく。

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