2023-06-04 18:00

田村潔司「解析UWF」第9回…UFC初開催とグレイシー柔術の登場

90年代、グレイシー柔術が格闘技界を席巻。右からヒクソン・グレイシー、ダン・スバーンを挟んで弟のホイラー・グレイシー。左端に写るのは修斗創始者・佐山サトル
90年代、グレイシー柔術が格闘技界を席巻。右からヒクソン・グレイシー、ダン・スバーンを挟んで弟のホイラー・グレイシー。左端に写るのは修斗創始者・佐山サトル
写真提供=平工幸雄

UFCの登場とグレイシー一族の台頭で揺れた90年代半ばの格闘技界。「何でもあり」の闘いに対し、魅せるプロレスを重んじる田村は距離を置くが、Uインターを取り巻く状況の変化によって総合格闘技の世界に足を踏み入れることを迫られるのだった。格闘技界、そして田村自身もが大きく揺れ動いた一つの時代の回顧録。

1990年代の格闘技界で最も大きな出来事といえば、間違いなく1993年の「UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)」初開催と、グレイシー柔術の登場だと思う。

あれから今年で30年。かつてバーリ・トゥードと呼ばれた“なんでもあり”の総合格闘技は、MMA(ミックスド・マーシャル・アーツ)と呼び名を変え世界中に広まり、今やトップ選手は億単位のファイトマネーを稼ぐようになっている。そういった意味で、核闘技界は「UFC以前」と「UFC以後」に分かれると言っていい。

しかし、UFCが始まった時点で、まさか自分がなんでもありの総合の試合に出るようになるとは、まったく思っていなかった。

ボクは当時、知り合いの映像制作をしている関係者からUFCの第1回と第2回大会のビデオを見せてもらった記憶があるけれど、最初はルールも確立されておらず、グローブもしていなかったので、イメージとしては街のケンカ。禁止なのは目潰しぐらいで、髪を引っ張るのも金的を殴るのもOKだったからあまりにも殺伐としていて、これがスポーツだとはとても思えなかった。

とくに衝撃を受けたのは、第2回大会の準優勝者パトリック・スミス(パトスミ)とスコット・モリスという選手の試合だ。パトスミがマウントポジションから顔面へパンチとエルボーを落としてTKO勝ちしたのだが、負けたモリスは頬骨が折れて顔面陥没してしまった。まさに衝撃映像。格闘技というより残酷ショーで、ボクらがやっているプロの闘いとはまったく別物としか思えなかった(ましてや、その顔面陥没させたパトスミと数年後自分が闘うことになるとは思いもしなかった)。

後にUFCはスポーツとして確立されていくけれど、当時のアルティメットというのはまさしく公開のケンカ。もっといえば、勝った負けただけの残酷な見せ物。プロデュースする側もあえてそういう面を強調していたと思う。

ケンカというのは、人によって強い弱いはもちろんあるけれど、誰にでもできること。でも、ボクらがやっているUWFの試合はキックやサブミッションの技術を駆使した闘いをリング上で見せて、お客さんを興奮させたり、感動させたりしなければいけない。それができない人は、上がれない舞台だ。だからアルティメットは、ボクらがやっていることとはまったく別物で交わることはないと思っていたし、UFCの人気自体、ケンカや殴り合いを観るのが好きな人だけが楽しんでいる一過性のもの。それがUWF系を含んだ、プロレス界にいる多くの人たちの認識だったと思う。

ただし、UWF系にとってはグレイシーやUFCを無視できない要素がひとつあった。それはパンクラスの外国人エースであるケン(ウェイン)・シャムロックが、第1回UFCでホイス・グレイシーにわずか57秒、チョークスリーパーで一本負けしまったことだ。

シャムロックは1990年から新生UWFのリングに上がっていたので、ボクも知らない選手ではない。当時、外国人選手と話をしたりする機会はなかったけど、シャムロックはUWFスタイルにすごく順応した外国人選手だという印象がある。体格的にバランスが取れていたし、パワーがあって打撃が強く、レスリングもできたバランスのいい選手。新生UWF最後の大会となった90年の12・1松本大会では、船木誠勝さんとメインイベントで対戦して、噛み合った好勝負を展開したことも印象に残っている。その後、UWFは3派に分裂してシャムロックとは別々の団体になったけれど、藤原組、パンクラスで船木さん、鈴木みのるさんらと切磋琢磨していただろうから、その実力に疑いはない。

そんなシャムロックが、アルティメット(UFC)という知らない大会に出て、ホイス・グレイシーという(当時は)無名な選手に負けたと聞いたときは、「ああ、シャムロック負けたんだ」という感じで、当初はべつに衝撃は受けなかった。あの頃、シャムロックは選手としてピークというか、いちばんいい時期だったと思うから、自分の強さに自信を持っていただろうし、UFCという大会も対戦相手もちょっと舐めていたんだと思う。自信を持って、少し油断しているところで、グレイシー柔術という未知の技術を使う選手に足元をすくわれたんだろうな、という認識だ。

当時からボクは、なんでもありの闘い方や相手の使う柔術を研究して再戦すれば、体格差もパワー差もあるシャムロックが圧倒すると思っていた。実際、両者は1年半後(95年4月7日)に再戦して、シャムロックがテイクダウンを奪って上になり、ホイスがガードポジションで守ったまま時間切れ引き分け。当時、判定決着はなかったけれど、今の判定基準だったらシャムロックの勝ちだったはずだ。上になりながらシャムロックが勝てなかったのは、まだサブミッション技術に関しては荒削りで、力任せの関節技だったからじゃないかと思う。

いずれにしてもシャムロックとの再戦で、グレイシーが無敵の存在ではないことがわかったと思う。それでもその後、グレイシー幻想は消えるどころかどんどんと大きくなっていった。そのきっかけとなったのは、やはり安生洋二さんのヒクソン・グレイシー道場破り失敗だっただろう。

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取材・文=堀江ガンツ

田村潔司=たむら・きよし|1969年12月17日生まれ、岡山県出身。1988年に第2次UWFに入団。翌年の鈴木実(現・みのる)戦でデビュー。その後UWFインターナショナルに移籍し、95年にはK-1のリングに上がり、パトリック・スミスと対戦。96年にはリングスに移籍し、02年にはPRIDEに参戦するなど、総合格闘技で活躍した「孤高の天才」。現在は新団体GLEATのエクゼクティブディレクターを務めている。

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