バカやって笑って、じゃー寝ろ!━━深夜ラジオの醍醐味を描いた舞台『はがきの王様』を『松田好花ANN0』リスナー筆者がバカみたいな文字数で徹底レポ!
(みなさんのラジオを聞きながら、ロスを埋めています…✏)
— 舞台『はがきの王様』公式📻6/7(日)まで大千秋楽公演配信中 (@hagaki_osama) June 3, 2026
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5月30日、舞台『はがきの王様』が大阪・森ノ宮ピロティホールにて大千秋楽を迎えた。
5月14日~24日に東京・本多劇場、28日~30日に大阪で行われた、舞台『はがきの王様』。松岡昌宏が主演を務め、18年ぶりにピエール瀧が舞台出演となった本作品は、深夜ラジオと、そこに集うはがき職人たちを描いた物語。二人の名優のほかに、黒谷友香や槙尾ユウスケ(かもめんたる)、そして『オールナイトニッポン』で現役パーソナリティを務める松田好花などが出演した。彼女のラジオを毎週聴き、記事にしてきた筆者としては題材も含め見逃せない公演となり、5月17日の東京夜公演と5月30日の大阪昼公演に足を運んだ。本稿では『はがきの王様』を観覧し、筆者が注目したポイントを紹介したい。

舞台本編は、高校生時代の主人公・田中浩司(渡部秀)が、“ならこう”こと楢崎幸之助(ピエール瀧)の『オールナイトニッポン』を聴き、深夜ラジオにのめり込む回想シーンから始まる。舞台セットは二層構造となっており、1階で浩司がラジカセでラジオを聴きながら、2階ではラジオブースを模したセットで実際にならこうがトークを繰り広げる。「風俗ライターの~」と文字にするのが難しい下ネタ全開のトークで深夜を盛り上げる『楢崎幸之助のオールナイトニッポン』(以下、『ならこうのANN』)。ならこうの口癖は「お前バカだなぁ」。この“バカ”というワードが同作品の鍵を握る。
「ならこうを俺の書いたバカなはがきで笑ってもらいたい」。「PN.ハガキング」の浩司がはがきを送る理由はただそれだけだった。いつしか番組を代表するはがき職人となり、そのおかげで後に妻となる高校時代の嬉里弥生(松田好花)と意気投合。この時、作品の舞台は長崎だったため、松田は長崎弁のセリフを披露していた。『松田好花のオールナイトニッポン0』では方言を意識しながらの演技に苦しんでいると語っていた松田(2026年3月19日回)。長崎にゆかりのない私が言うのもおこがましいが、素人耳にも長崎弁のセリフが流暢に、違和感なく耳に入ってきた。
閑話休題。送ったはがきが次々と読まれ、その結果恋が成就する━━浩司の人生は順風満帆に思えた。しかし、大人になった浩司はあの頃の情熱を失っていた。大人になるにつれて番組から遠のき、40代の浩司は理想が高く合理的で、数字を追い求めるあまり、部下にはパワハラまがいの理詰めをする大人になっていた。その結果、会社をクビに。家庭環境も悪化し、妻(黒谷友香)は二人の地元である長崎に帰ってしまう。全てを失った浩司は、母(高乃麗)が病気で倒れたことをきっかけに10数年ぶりに長崎に帰郷。すると実家には高校時代に使っていたラジカセがあり、久しぶりに電源を入れると、聴こえてきたのは『ならこうのANN』だった。
「まだ続いてたんだ……」と浩司は久しぶりの声に思いをはせる。舞台の2階では高校時代の回想シーンと同じように、ラジオブースを模したセットで『ならこうのANN』が放送されていたが、その時とは違う点があった。ラジオブースにはならこうともう1人、謎の男性がいたのだ。浩司がそんな『ならこうのANN』を感慨深く聴いているのも束の間、半年後に番組が終わることが告げられる。ならこうの声が聴けなくなる━━浩司は筆をとり、10数年ぶりにはがきを送ると、「PN.はがきんぐ」という懐かしい名前から、という理由で名前を読み上げられる。しかし、そのはがきの内容は読まれることなく、ならこうからは「腕落ちたな」と言われてしまう。
打ちひしがれた浩司。すると、深夜にもかかわらず電話がかかってくる。それはラジオブースでならこうの隣にいた男性からであった。彼は番組の放送作家で、かつて浩司と『ならこうのANN』でしのぎを削ったはがき職人、「PN.バカ爆走」こと五所川原剛(槙尾ユウスケ)からだった。
その後、浩司はならこうのラジオでライバルだった五所川原と初めて対面し、そして五所川原から今の『ならこうのANN』を支えるはがき職人、「PN.ピンクデニーロ」こと鈴木シャーク(渡辺裕太)と「PN.すね毛が飛んでった」の東七音(栗原萌実)を紹介される。彼らとの出会いは浩司の失ったラジオへの情熱が再燃するきっかけとなる。「ならこうを自分が面白いと思うもので笑わせたい」。その一心で浩司は再び『ならこうのANN』に“バカ”なはがきを送る。その結果、家族との関係は元通り以上になり、新たに出会ったラジオ仲間の力を借りた浩司は、コミュニティラジオのパーソナリティとして再スタートを切るのであった。

ここまで、私の心に残った箇所を中心にざっくりと『はがきの王様』を振り返ってみた。もちろん、この他にも細かい部分で作品を観た方の心に残っているシーンはあると思う。ここからは、筆者が本作のキーパーソンだと思う2人を紹介したい。
まずは東七音と、役を演じた栗原萌実さんについて。浩司が五所川原や鈴木、東と公園に集まってラジオ談義をするシーンがあるのだが、浩司は「勝つためだけにはがきを送っている」と他の3人とは違い、勝敗に執着するような発言をする。それに対し五所川原が怒りをあらわにすると、2人は取っ組み合いの喧嘩を始める。
しかし、体がいうことを聞かないおじさんの喧嘩は痛み分けに終わる。そんな2人に東は水を、自身と鈴木にはカルピスを買ってくる。「なんでカルピス?」と疑問を呈す鈴木に、東は「美味しいから」と、この時は答えていた。その後、取っ組み合いをした2人は、お互いにライバルとして長年意識していたことを打ち明ける。浩司が抱いていた「勝つためだけ」とは違う、純粋に相手をリスペクトしたうえでの「勝ちたい」という思い。この本心を聞いた東は、今度は2人にカルピスを差し出し「青春ですね」と声をかけていた。「青春は色褪せない。今も昔も甘酸っぱい。みんなの青春、応援してます。produce by カルピス」(TikTokアカウント、【公式】カルピス@青春中より)。おじさん2人が人目をはばからず取っ組み合いの喧嘩し、しかもその相手はかつて青春をささげたラジオでしのぎを削ったライバル。いつだって青春は色褪せない。カルピスがぴったりのシチューエーションだった。
そんな栗原さん演じる東は医師の家系に生まれた、というバックボーンがある。厳しい家柄から“バカ”なことや“バカ”と言われることから縁遠い生活を送っていた。そんな時『ならこうのANN』にメールを送り、ならこうから「お前バカだな!」と言われたことに救われたという。他人の前では取り繕い、関わることに抵抗がある彼女だが、『ならこうのANN』を通じて少しずつ心を開く。おどおどしながらも、ほぼ初対面の浩司にカルピスを差し出す演技には若干の抵抗が感じられ、東の感情の機微を表現していた。松岡さんも自身のラジオで「吸収の仕方が半端ない」「これからとんでもないことになっていく」と太鼓判を押していたが、まだ女優になって1年の栗原萌実さんの今後に期待したくなる細やかな演技だった。
そして、浩司の妻である嬉里弥生の高校生時代と、大人になった浩司と弥生の間にできた娘・田中青葉の二役を演じた松田好花さんについて。彼女は「腕が落ちたな」と言われた浩司が、再びならこうにはがきを読まれるきっかけとなる重要なセリフを担当していた。
と、その前に『松田好花のオールナイトニッポン0』のリスナーが期待していたであろう、松田さん×松岡さんのアドリブ合戦を紹介しておきたい。5月19日・26日の放送で、松岡さんからラジオで話したことに関するアドリブを入れられたと話していた松田さん。筆者にとって2度目の観覧となった30日の大阪昼公演では、そのアドリブに期待していた。どんなネタを松岡さんは仕込むのか。そして松田さんはどう返すのか。舞台本編で浩司がニヤニヤしながら『ならこうのANN』を聴く場面にて、その様子に松田さんが「キモイんですけど」と苦言を呈すのだが、その返しのセリフでアドリブが入れられ、30日の大阪昼公演では「クソゲー終わったか?」だった。
これも松田さんのラジオが元ネタのアドリブ。松田さんが「ネジを外すクソゲー」の魅力を事あるごとに力説していたことを知るリスナーが会場に多くいたのか、松岡さんの「クソゲー」に笑いが起きていた。遠目ではっきりとは見えなかったが、松田さんは「ヤベっ」と、あたかも本当にお父さんから指摘されたような表情をしていたと思う。また、父・浩司は、最近の流行に疎く、「最近の流行りは何なんだ?」と青葉に尋ねていたことから、「クソゲー」についてもいまいち理解していないと思われる。これをチャンスだと捉えたのか、松田さんのアドリブ返しは「課金していい?」で、実際はどうか不明だが、舞台ではクソゲーの沼に足を踏み入れているようだった。
話を本編に戻して、この親子アドリブ合戦の後、再び親子の会話のシーンがあるのだが、そこで娘・青葉は父・浩司の「最近の流行りは何なんだ?」と尋ねられた際、TikTokの動画を見せる。これに浩司は「これが面白いのか?」と理解できない様子だったが、青葉は「私はコレが面白い」と返していた。この発言を受けて浩司は、最近の流行に乗っかったネタのはがきを書くのではなく、「自分が面白いと思ったネタを書けばいい」と気づく。浩司は往年の名司会者・大橋巨泉を元ネタにしたはがきを番組に送るとならこうに読まれ、一度は「腕が落ちたな」と読まれなかったことへのリベンジを達成。その放送を聴いていた鈴木や東は、古すぎるネタを理解できていかなったが、それでよかった。「ならこうに俺の書いた“バカ”なはがきで笑ってもらいたい」。ラジオはリスナーがパーソナリティに届けたいものを送る場所でもあることを再認識させる場面だった。
ここまで『はがきの王様』を筆者なりの視線で振り返ってきた。一人語りのラジオであっても、パーソナリティは一人じゃない。支えてくれるリスナー、はがき職人という形で活躍する人たちみんなで作り上げているものだと改めて気づかされる、そんな物語だったのではないだろうか。もっとも、そんな感想をならこうに伝えたとしても、「お前バカだなぁ。そんなこと考えなくていいんだよ」と笑い飛ばされるかもしれないが━━。深夜ラジオは肩肘張らず、バカやって笑えればそれでいい。そして最後にならこうの決めゼリフであり、カーテンコールで松岡さんが観客に向けてサプライズで言ってくれた「じゃー寝ろ!」の言葉どおりにすっきり眠りにつくのが深夜ラジオの醍醐味なのかもしれない。










