2022-10-06 18:00

西武ライオンズの清原和博を知ってるか?【第11回】

西武ライオンズの清原和博を知っているか?

PL学園の主砲として甲子園を沸かせた清原和博。1985年の運命のドラフトによって盟友桑田真澄は巨人に入団、憧れのチームに裏切られ忸怩たる思いを抱えながらも、18歳の清原は西武ライオンズ入りを決断。彼はここで野球キャリアの中でも最も華々しい活躍をすることになる。そんな彼がひとりの野球人として輝いていた西武ライオンズ時代約10年間を描いた『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(7月21日発売/白夜書房)よりお届けする。

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1986年⑤
ホンモノの4番打者

ベスト・オブ・ザ・ベストの若者達が、愛と青春の全てを賭けて遥かな大空へ飛び立つ!

これは村西とおる監督作品『スカイファック』のビデオパッケージ裏説明文ではなく、86年12月6日に日本公開された、当時24歳のトム・クルーズ主演映画『トップガン』の宣伝コピーである。同日、西武ライオンズの清原和博は選手会主催のリレー・マラソンに顔を出すため、名古屋の名城公園にいた。オフに入ると東京で200件を超える取材をこなし、5日午前には大阪で大阪府知事賞の贈呈式に出席。超多忙なスケジュールでの名古屋入りだったが、すかさず地元・愛知出身の工藤公康が「すまんがちょっと頼むわ」と40枚ほどの色紙を持ってくる。工藤の知り合いたちがこぞって清原のサインを欲しがったためだ。8日夜には東京プリンスホテルで西武ライオンズの納会。堤義明オーナーからオーナー賞として金一封が贈られ、詳細はヒミツだったが、新聞記者から「パーッと使おうじゃないの」とからかわれると、キヨマーは真顔で「そんな、百万円なんてひと晩じゃ使いきれないですよ」なんつって思いっきり金額を口にしてしまい一同爆笑。文字通りバラ色のオフの様子を『週刊現代』が「大阪凱旋大フィーバーの一部始終」と密着リポートで追っている。

時計の針を少し戻すと、『スケバン刑事Ⅱ』でトップアイドルに躍り出た南野陽子のシングルレコード「接近(アプローチ)」が発売された86年10月、ペナントレースで高卒新人最多記録の31本塁打を放ったワンダーボーイは、実りの秋の日本シリーズで「ホンモノの4番打者」となった。

リーグ優勝を決めた10月9日夜の祝勝会は、未成年だったがチームメイトからもみくちゃにされ、「ビールは飲んでませんよ」と前置きしつつ、泡まみれのまま「ビールは体で飲みました」なんてしっかり見出しになる名言を残す。一方で、先輩たちがその勢いのまま夜の街に消える中、翌日のシーズン最終戦にルーキー新記録の32号アーチが懸かっていたキヨマーは、早めに寝て明日に備えるためひとり合宿所へ戻る。

おちゃらけているようで、ヤルときはヤル。年上のエレクトーン教師との朝帰りに続いて新人ポルノ女優とのデートをしっかりフライデーに撮られ……じゃなくて、この年のパ・リーグ最多勝投手・渡辺久信は、西武寮の中庭で目撃した光景を『週刊現代』でこう証言している。

「真夜中の十二時過ぎだったと思うけど、暗がりの中でバットを振っているヤツがいる。誰かな、と思ってのぞいてみたら、清原だった。こいつ、やってやがるな、と思ったが、ボクは声をかけないで部屋に戻りました。あの素振りは延々四十分は続いてましたね」

しかし記者がキヨマー本人に手の平のマメについて尋ねると、「そんな楽屋裏の話はやめましょう。ボクらはプロやから、練習するのは当たり前」とピシャリ。19歳のスラッガーには美学があり、意地があった。ペナントで王巨人との激しいデッドヒートを制した広島カープと対峙した日本シリーズでも、当然のように「4番ファースト」で先発出場。この年限りで現役引退を決めていた40歳のミスター赤ヘル山本浩二との4番対決は、球界の世代交代の象徴と注目される。フジテレビの特番収録で日本シリーズの見てほしいところを聞かれ、「守備と走塁です」なんて己の課題点をネタにする図太さを見せたキヨマーは10月18日の初戦からいきなり2安打。しかし直後に自打球を当てた際、左足親指のつけ根を亀裂骨折してしまう。

所沢の病院で診察を受けたときは医師に触られただけで「イテーッ!」と絶叫。チームは初戦引き分けのあと連敗と最悪のスタートを切るが、キヨマーは沈みがちな先輩たちを横目に好物の焼き肉を頬ばり、マツタケご飯のマツタケの匂いをしきりに嗅いで「ええ匂いやぁ」とのたまう余裕を見せたことが『週刊明星』で報じられている。骨折にもかわらず平然とスタメンに名を連ね、3連敗してチームが崖っぷちに追い込まれてなお「西武は絶対勝つ!」と断言。このときチームを率いる森祇晶監督も「広島に王手をかけられたわけだが、私は不思議と負ける気がしなかった。結果論ではない。第4戦まで勝ち星がなかったのは単に打てなかったことが理由である。一つでも勝てば流れが変わるという自信があった」と自著『覇道─心に刃をのせて』(ベースボール・マガジン社)の中で回想している。

不思議と怖いもの知らずの若者達が主力を張るチームに悲壮感はなかった。第5戦の延長12回裏に投手の工藤公康がライト線へサヨナラ安打、流れを変えると、再び広島へ戻っての第6戦で、サウスポー大野豊から4番清原が待望のシリーズ第1号をかっ飛ばす。第2戦で徹底した内角攻めで4打席無安打に抑えられ、「この借りは絶対に返します。二度同じ球では絶対にやられません。見ててください!」と宣言通りのリベンジアーチ。この試合をモノにすると、翌日の第7戦でも清原は同じくルーキー右腕の長冨浩志が投じた内角のシュートをとらえ、左翼線へ先制タイムリーを放つ。西武は頼れる主砲の働きで3勝3敗1分けのタイに追いつき、シリーズ史上初の第8戦までもつれ込む。

…つづく

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