荒井優希はなぜ強くなったのか 王者として開花した“受けのレスリング”

いま、女子プロレスラー・荒井優希が面白い。
2021年からSKE48との『二刀流』で活動してきた荒井だが、グループからの卒業を機にプロレスラーに専念。今年3月には東京女子プロレスの最高峰王座であるプリンセス・オブ・プリンセス選手権のベルトを獲得。順風満帆に見えて、5年近い道のりを経ての頂点到達だった。
正直な話、王座奪取時には「シングル王者としてやっていけるのか?」と不安視する声もあった。じつはプロレスに専念してからしばらくは、なかなか結果の出せない時期が続いていた。二刀流よりもプロレスに没頭できるはずなんだから、もっと飛躍してほしい、という期待が高まりすぎたことで余計に足踏み状態が目についてしまった。それゆえに不安論が出てきてしまったのだが、いざ防衛ロードがスタートすると、その不安は一掃されることになる。
とにかく、どの防衛戦も面白い試合になるのだ。
本人は「チャンピオンになったからといって、特に意識して闘い方を変えたつもりはない」と言う。誰も気づいていなかったが、どうやら荒井優希は「受けのレスリング」が合っていたようだ。いままでずっとチャレンジャーとしての闘いばかり見てきたので(インターナショナル王座やタッグ王座を戴冠したことはあるが、そのときもまだチャレンジャー的な闘い方だった)、気づきようがなかったのだが、どっしりと構えて受けて立ち、最後は説得力満点の大技で仕留めるスタイルは、チャンピオンとして魅力的すぎる。ほぼ毎月のように防衛戦が組まれてきたが、どれもこれも好勝負になっただけでなく、観客動員的にも上々の結果を残してきている。まさに王者としての闘いぶりが高く評価されている証明である。
10月に大田区でおこなわれた鈴芽との防衛戦では怖いぐらいの強さを見せつけた。まるで90年代のジャンボ鶴田を彷彿とさせるようなシーンが幾度もあった。アイドル時代しか知らない人が見たら、ちょっとびっくりするかもしれないが、プロレスに専念するようになって、体つきもすっかりプロレスラーらしくなった。もともと恵まれた体躯ではあったが、さらにパワーアップしたわけで、そりゃ、強くなるわけである。
さらにいえば防衛戦を重ねるたびに、挑戦者からなにかをラーニングして、自分の弱点を克服したり、新たな能力を獲得したりしているようにも感じられる。だからこそ、次の防衛戦かさらに面白くなるのだろうし、成長ストーリーとしても、この連続性は非常に面白いエッセンスとなっている。どんどん荒井優希がプロレスラーとして完全体になっていく姿をリアルタイムで追えるのだから。
次なる防衛戦は11月8日、後楽園ホール。挑戦者として名乗りをあげたのはベテランの中島翔子。中島は極上のレスリングマスターとして海外でも高い評価を得ている技巧派レスラー。その卓越したテクニックを荒井が習得したら、もう誰も手がつけられないチャンピオンになるだろう。
その一方で習得しようにも一筋縄ではいかないものもある。
それはキャリア、だ。東京女子プロレスの旗揚げメンバーである中島は今年でプロレス生活13年目。その間に2度、最高峰王座も戴冠している。そこで得た経験則ばかりは短期間でラーニングできるものではない。荒井がいままでリング上で経験したことがないような局面にぶち当たったとしたら、イッキに勝機は中島に向いてくる。『全長1.47メートルの大怪獣』の異名を持つ中島に映画『ゴジラ-0.0』公開のタイミングでビッグチャンスが巡ってくるのも、なかなか面白いめぐり合わせではある。
この防衛戦をクリアすれば荒井はベルトを巻いたままの越年が濃厚となってくる。年明けの1月4日には毎年恒例の『イッテンヨン』後楽園ホール大会が待っている。世界中からプロレスファンが日本にやってくる『イッテンヨン』だけに、毎年、普段は東京女子プロレスの会場には足を運ばないような客層も集まって後楽園ホールは満員の観衆で埋まる。海外からも注目度が高い大会のメインイベントにチャンピオンとして立つことは大きなステータス。11.8後楽園での中島翔子戦は荒井優希が2027年も主役として君臨できるかどうかの最終関門となりそうだ。

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