2025-05-14 11:50

【吉田豪インタビュー】井上富雄、過去のものはそんなに引っ張らないでいきたい

井上富雄
撮影/河西遼

手先が器用すぎて

――当時、めんたいロック(注6)というキャッチフレーズについてはどう思ってたんですか?

井上:最初はやっぱり、それはちょっとダサいんじゃない?っていうのはありました。

――こんな定着するフレーズになるとは。

井上:そうそうそう(笑)。ホントに、冗談だろうなと思ってて。でも当時は、そんなにめんたいロックって銘打ってなかったんですよ。日が経ってからそれが定着してきて。

――もともと、ルースターズの宣伝会議で日高さんが発案したってことみたいですね。

井上:うん、日高さんとか麻田さんとかあのへんの人たちが、「九州から来たんだからめんたいロックでいいじゃねえか」って。

――大雑把すぎますよね(笑)。今回の本で驚いたのが、ルイードでお披露目のライブをやったとき、お客さんのテーブルに博多明太子が積まれてたってエピソードでした。

井上:えーっ!?  そんなことあったのか。たぶん当時のスタッフたちが一生懸命考えたんだと思います。何かキャッチーなことを。

―― 当時、セールス的な手応えありました?

井上:当時、最初はお客さんふたりのときもあったし、それも観に来た客じゃなくて、たまたま寄ったカップルで実質ゼロ人だったんだっていうライブもあったし。それが徐々に10人になり20人になり100人になり、くらいの頃の手応えはありました。内田裕也さんが若いバンド集めて、無料か100円かわかんないけど、とにかくすごく入場料が安い野音のライブに出させてもらったのとか、ああいうのがきっかけでどんどんお客さんが増えていったのはたしかですよね。ロフトも満員になってきて、2日も3日もやるようになったとか。僕がいる頃はやっとホールコンサートやれたかなってくらいの頃だったんで。

――その野音のとき、大江さんが裕也さんに突っかかったという事件がありましたよね。

井上:そうですね。その野音の打ち上げで、突っかかったんでしょうね。あのときは僕の斜め前くらいで裕也さんと大江がなんか話してるなっていうのは見えてたんですけど。

―― 大江さんが裕也さんのモノマネをして力也さんが怒った、みたいな説を聞きました。

井上:僕、内容はホントに知らないの。ただ力也さんが「あんちゃんにそんな口の利き方するな」って。で、「出ろ」って言ったんだと思います。ワーッとみんな外に行くから「どうしたの? どうしたの?」みたいな。

―― 力也さんvs池畑さんになりそうになって白竜さんが止めたのは本当なんですか?

井上:みんな外出て行って、「大江が力也に殴られた!」とか聞こえて。池畑は気づいたの一番最後なんです、ぜんぜん違うとこにいたんで。で、池畑が力也さんにちょっと絡み気味になって。でも力也さんも「若いバンドのヤツを殴ってすまなかった」的な態度だったというか。そのとき桑名正博さんとか宇崎竜童さんとかいろんな方がいたんですけど、わりと僕ら側というか「何かあったら電話してこい」って感じではありました。まあ大江がちょっと口が過ぎたんでしょうね(笑)。

―― そういう物騒な先輩相手にも退かない人だったんだなっていうのが衝撃でした。

井上:まあ、そうですね。あんまり上からいろいろ来られると嫌う人なんで。

―― 上下関係厳しい世界で生きてきたのに!

井上:ハハハハハ! 好き嫌いがハッキリしてるというかね(笑)。

―― 当時はバンド同士のそういう物騒なトラブルも多かったと思いますけど、井上さんはそれも客観的に眺めてきた感じですかね?

井上:まあ、ロフトとかではチョコチョコありましたね。僕が強烈に覚えてるのは、映画『爆裂都市』(注7)の打ち上げをロフトでやったんですよ。そこにザ・スターリンもいればアナーキーもいれば、セッションみたいなのするんだけど、誰かが行くと誰かが殴りかかるみたいな(笑)。そんなのがずっと続いてて。

――映画に出られなかったのが悔しくて、アナーキーが嫌がらせをしてたと聞きました。

井上:たぶんそう、(遠藤)ミチロウが歌ってるときに(仲野)茂が殴りかかったのは見ましたね(笑)。

――その『爆裂都市』の頃がいろんな岐路になってる気がするんですよね。まず、あの撮影で大江さんが神経をすり減らしていって。

井上:そうですね、どんどん……。

―― 映画に出るのは大江さんと池畑さんだけで、花田さんもルックスがいいからモデルの仕事をするようになって、だんだんみんながバラバラになっていったってことでしたね。

井上:そうですね。映画には、自分は参加してないけどうれしいものはありました。メンバーが映画に出るんだ! 頑張ってください!みたいな。どんどんバンドの活動的なものが広がってるなって感じはありました。

――井上さんも、柏木さんを中心としたバンド“1984”のメンバーとして『爆裂都市』のサントラに関わったりはしたけれども。

井上:うん。特別自分たちが何かをやるというより、その映画のサントラは柏木が任されたと思うんですね。柏木さんがほとんどアイデアを持っててビジョンがあったので、それに合わせてみんなで演奏する感じ
でした。

――その頃から、だんだん柏木さんが実権を握っていくような流れに見えるんですよね。

井上:そうですね。ファーストも意外と好評で、レコード会社的にはそんなに売れねえだろと思ってたものが意外にチョコッとは売れてんじゃん的になって、柏木の評価も上がってきたんじゃないのかなと思います、事務所内も含めて。柏木さんの仕事をする範囲も広がっていったのではないかな、これは想像ですけど予算ももっと下りるようになったり。

――この頃、ジャケット撮影のとき壁に頭を打ちつけたりとか、大江さんのメンタルが危うくなっていくわけですけど、当時はそういう病についての知識もそんなにない時代だから対応の仕方も難しかったと思う
んですよ。

井上:そうですよね。精神的な話で知ってるっていうとホントにフロイトかユングぐらいで、そんなレベルです。いまでも理解できないものじゃないですか、精神的な病は完治するには難しい病気のひとつだろう
し、こうやったら治るっていうようなものではないというか。だから当時は余計に何が起こったのか、ましてや僕も22〜23歳とかの頃だし。

―― 何がトリガーかもわからないですよね。

井上:うん、だからみんな憶測でいろいろ話すわけですよ、あれがよくなかったんじゃないか、あのとき誰かがこう言ってたからどうのこうのとか。いろんなことが原因でもあるだろうし、もしかしたらそういう
チョコマカしたこととは関係ないところなのかもしれないし。で、だんだんちょっとバンドの活動が停滞してきて。僕にしてみれば一番信頼してたアーティストが大江慎也だったので、どうつき合っていいかわか
らなくなって。しかも大江が病気になったとはいえ、そういうのも伏せてるわけだから。大江のああいうパフォーマンスをみんな当時は演技だと思ってて。

――デヴィッド・バーン(注8)みたいな感じで。

井上:うん。パフォーマーとしてやってるっていうふうに捉えられてたところもあったし、もちろん半分それもあるとは思うけど、でも具合が悪いのはたしかだったと思うし。

――そしたら、まず池畑さんが抜けて。

井上:ええ。やっぱり『レッツ・ロック』(注9)とかああいう曲でガンガン盛り上がってきてるときだったので、それは急にそういう音楽ができなくなるのに等しいというか、池畑が抜けたことでそういうタイプの感じを何かしら変えていくことになったというか。で、自分の音楽の興味もどんどん広がっていって、違うこともやってみたいし、やるなら早くやったほうがいいんじゃないかと思ってました。

―― 大江さんが元気だったらあのときやめてなかったっていう発言もありましたね。

井上:そりゃそうですよ。大江が元気だったら次こんなことやろうって話に当然なっていったと思うし、メンバーのことも気にかける人だったので、おまえこういうふうにやったらいいじゃんっていうのもあっただろうし。

――当時は「急性胃腸炎で休みます」的な発表しかできなくて、いまなら1年でも2年でも休養を取ろうみたいな話になっただろうけど、無理やり続けた結果、よりひどい状態になって。あのまま待っててどうなるかもわからない以上、しょうがなかったと思います。

井上:うん。だから脱退についてはそういう感じだったと思うんです。ホントに、こればっかりはしょうがなかったんだろうな……。

――花田さんがバンドを受け継ぐのも、やめるのも、それぞれ理由はあったんだなって。

井上:後期ルースターズが好きな人って意外と多いんですね、ちょっとサイケっぽくて下山(淳)のギターとアレンジとか、そういうところから逆にファンになって。むしろそれくらいの頃のほうがセールス的には
上がってたというか、人気度も高まってたというか。

――ちょうどバンドブームもあって、ホールでふつうにできるようなグループになって。

井上:当時はそうだったと思うんですよね。でもルースターズも解散し、また時が経ったら今度はルースターズをリスペクトするような若いバンドが出てきて。そういう人たちは初期が好きなんですね。ああいうソリッドな音楽に影響を受けたっていうところでまた初期がリバイバルというか、オリジナルメンバーがどうのこうのってなるんですけど。流れでいえば一番ヒットは大江が病気になったくらいから花田が歌い出し
たくらいがセールス的には一番いってるんじゃないですかね。

――そんな時期にルースターズをやめて、次の月から皿洗いのバイトをやってたという。

井上:ハハハハハ! よく知ってますね。だってルースターズの貯えなんて1円もないですから(笑)。なんで皿洗いかっていうと、一応そこそこ人気が出る頃のバンドにいたので、さすがにウエイターは無理だろ
うってことで。和食屋で黙々とまじめに皿洗いしてたんですよ。1ヶ月くらいやってたら、そこの板長みたいな一番偉いオッサンに、「おまえ包丁で野菜切ってみろ」って言われて、切ったら「なんかいいな、じゃ
あ皿洗いはいいから野菜を毎日切れ」って、野菜切り担当になって。その店しゃぶしゃぶもやってて、スライスした肉を盛るわけですよ。ネギとか白菜と盛りつけて出す。今度そっちに移れって言われて、だんだん難しいほうを任されて。

――順調にフックアップされて(笑)。

井上:卵焼きはこうだとかいろいろ丁寧に教えてくれて、スタッフの賄いを僕が作るくらいになって。そしたら1年くらい経ったとき「調理師免許を取りに行け」って言われて(笑)。1年くらい働いたという推薦状
があると学校とか行かなくても調理師免許は取れるらしいんですね。「調理師免許を取っとけ、食いっぷちに困ったら役立つから」って言われたから、「いや俺そういうつもりじゃないんです」って、それで辞めましたけど。

――やっぱり手先が器用なんですかね。

井上:かもしれない。

――30歳くらいまでずっとバイトやってたっていう話もあって、意外だと思いました。

井上:ブルー・トニックのときもやっぱり給料だけではやっていけなくて。当時バブルで僕ら事務所がWAVEだったんですよ。

――バブル期のセゾングループだから、一番お金ありそうなイメージだったんですよね。

井上:いかんせん、そんなに売れてないバンドにたくさん給料は出ないので、それだけでやっていくにはちょっと厳しいかなって。

――そんなときに新生ルースターズが売れてたら複雑な感情になるのもわかりますね。

井上:当時はね(笑)。

取材・文/吉田豪

まだまだ続くインタビューは「BUBKA6月号」で!

井上富雄(左)と吉田豪(右)
撮影/河西遼

井上富雄プロフィール

1961年生まれ。福岡県出身。80年にザ・ルースターズのメンバーとしてデビュー。84年のバンド脱退後、自身がリーダーを務めるブルー・トニックを結成。89年の解散後は、ベースプレイヤーとしてオリジナル・ラブや小沢健二、椎名林檎など多くのアーティストのレコーディング、ライブに参加。最新ソロアルバムは23年発売の『Diamond Planet』。

記述注釈

(注6)めんたいロック…70年代から80年代にかけて福岡で登場したロック・ムーブメント。THE ROOSTERZ、THE MODS、シーナ&ザ・ロケッツ、ARBがそう称されていた。いわゆる「渋谷系」と同じように、当人たちが当時自称していたわけではないことがほとんど。

(注7)『爆裂都市 BURST CITY』…82年公開の石井聰亙監督による近未来SFアクション映画。バンド、暴走族、警察、ヤクザ、スラムの民が入り乱れる爆裂ムービー。

(注8)デヴィッド・バーン…52年生まれ、イギリス出身。74年にアメリカでトーキング・ヘッズを結成。ブカブカのシャツを着て痙攣するパフォーマンスが特徴的。

(注9)『レッツ・ロック』…81年リリースの3rdアルバム『INSANE』に収録。JR HAKATA CITYのCMでガールズバンドによるカバーアレンジが使用された。

【吉田豪インタビュー】

・【吉田豪インタビュー】中村一義、いつも『最後の聖戦」の気持ちで

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