2024-05-06 18:00

上出遼平インタビュー、読んだ人の目が丸くなる“ありえない”本書、スタイルは決まっているほど壊しやすい――

『ありえない仕事術』の著者、上出遼平
『ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方』の著者、上出遼平

『ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方』を上梓した上出遼平氏にインタビューを実施。「これは一体どういうことなんだ⁉」。読んだ人の目が丸くなる“ありえない”本書。スタイルは決まっているほど壊しやすい――。

仕事術をいじくり回す

――タイトルが示す通り、まさに〝ありえない〞仕事術の本です。一部と二部で構成されることに加え、思わぬ展開をはらんでいきます。コンセプトは以前からあったのでしょうか?

上出遼平  元々考えてはいました。冒頭でも書いたように、以前から仕事術の執筆依頼を各出版社からいただいていたのですが、仕事術の本を参考にした試しもなければ、嘘くさいなという印象もあって。また、僕自身が仕事術に対して、何かを言えるような立場でもない。テレビ東京時代は、会社員として全然真っ当じゃなかったので、依頼がある度に断っていました。その一方で、「本を書きたい」という思いは常にあって、書店へ行くと仕事術の本が一角を席巻している。「これほど需要があるなら、自分のやりたい形で、新しい形でできないだろうか」と、あるときからぼんやりと考えるようになったんです。僕のやっていることって、既存の人気パッケージを拝借して、違う出口に連れていくみたいなこと。スタイルが決まっていれば決まっているほど壊しやすくもあって、人気があるということは、それだけ仕事術はスタイルが決まっているということでもある。そんなことを思い始めたときに、徳間書店さんからオファーをいただき、今お話したようなことをお伝えしたら「いいですね」と。

――ビジネス書ではあるけど、一概にくくることができません。ご自身は、この〝ありえない本書〞のジャンルは何だと思われますか?

上出遼平  結局、仕事術の本でいいと思っています。第一部は典型的な仕事術。第二部までトータルで読んでも、仕事術の本に変わりはないと思います。僕の仕事術には、先述したようにスタイルを壊すという一面があります。既成概念みたいなものって、障壁や窮屈さのように感じがちですけど、固定されればされるほど、使い勝手のいいものになる。固定している世界を大胆にいじくり回すことで、それまで関心がなかった人に伝えることができる。それがエンターテインメントとして成立するんですよということを伝えたかった。そういう意味で、仕事術やビジネス書の棚に置いてもらえたら気持ちいいなと思いますね。

――なるほど。こういう提案の仕方もあるという意味では、たしかにビジネスであり仕事術です。ただ、想像のはるか斜め上に行くという(笑)。

上出遼平  自分に対する戒めもあるんですよ。第一部で書いていることは、僕の中ではまったく嘘はなくて、本当にそうした思いで仕事をしてきた。こういう失敗をしてきたから、こういう教訓を得たということを素直に書いていて。僕のやり方って、作る番組もそうなんですけど、常に綱渡りなところがある。新しいものを作ろうとしているから、リスクは絶対にあるし、当たり障りのないことをする時間なんてないという感覚でやっている。

――上出さんが手掛けた『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は、当たり障りのない世界とは真逆ですよね。

上出遼平  第一部で書いている方針に則って仕事をしていても、少しずつ逸れていって、いつの間にか取り返しのつかない場所に行ってしまうかもしれない……そういう恐怖が、僕の中に常にあるんです。ギリギリの世界だからこそ、起こりうるかもしれないという警鐘というか。

――『ありえない仕事術』は反面教師的なニュアンスもあると。一つの考え方として、「競わない道」を提示しています。上出さんは、いつ頃から競わないことを意識し始めたのでしょうか?

上出遼平  小学校のときの運動会もそうですけど、昔から競争が嫌だったんですよね。もちろん、競争意識がモチベーションになって、自分を成長させることにつながったこともあると思います。でも、競争さえなければ、この苦しみはないのにってずっと考えていました。勝者として、敗者と向かい合ったときの気持ち悪さみたいなものもあるじゃないですか。だからなのか、僕は山歩きが好きになったところがある。多くのスポーツには勝敗がありますが、山歩きは誰かと競うわけではない。それこそ、僕は大学時代にプロボクサーのライセンスを取得しましたけど、ボクシングには勝ち負けがある。その勝ち負けは楽しさもある一方で、支配する側になる可能性も秘めていて、そうはなりたくない。僕は負けん気がとても強いこともあって、なおさらそう感じていたのかもしれないです。

――そうした感覚が、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』よろしく、内面と向き合うような番組として昇華されたところはありますか?

上出遼平  競争が好きな人は、人間の世界でしか生きてないところがあると思うんです。しかも、自分と同じ範疇の人間としか基本的には競わない。『ハイパーハードボイルド』で言えば、僕自身、自分がいかに無力かということを理解できているから、取材対象と真正面から向き合うことができたと思うんですね。極論ですが、東京の港区でビジネスだけをやっている人たちが、ケニアのゴミ山に行ったとして、どう思うか? 優劣の価値観が経済の範疇で固定されている人がゴミ山へ行けば、そこにいる全員が劣等生に見えるかもしれない。「金持ってないやつら」と。だけど、山、川、熊などの比較対象がいると、ケニアのゴミ山で暮らしている若者がものすごく強い存在に見える。「こいつにはかなわん」となる。僕はとても無力で、競争しても仕方がないということがベースにある――そうした意識があったからこそ、『ハイパーハードボイルド』を手掛けることができたと思います。

上出遼平プロフィール

1989年、東京都生まれ。テレビディレクター・プロデューサー。早稲田大学を卒業後、2011年に株式会社テレビ東京に入社。2017年にスタートした『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集など、番組制作の全過程を担う。ポッドキャスト番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』、POPEYE、群像など連載多数。

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