選抜の噛ませ犬じゃない!乃木坂46最新アンダーライブ極私的過剰考察「私、アンダーメンバーの味方です」
11月20日(水)、全国5都市を巡る乃木坂46「36thSGアンダーライブ」の最終公演が、KT Zepp Yokohamaにて開催された。10月7日(月)の福岡公演を皮切りに、10月は各地で計8公演。11月18日(月)~20日(水)に3公演行われ、最後の2日間はライブ配信された。
今回のアンダーライブに関して、筆者は最終公演しか観ていないことを心底後悔している。それほど、今回のステージは歴代でも一番のパフォーマンスが目白押しだった。
今回のアンダーライブに関して、“存在証明”の要素が色濃く出ていたと感じている。「アンダー」×「Zeppツアー」という原点回帰の組み合わせに加え、乃木坂46の中でも会場の空気を一変させるアンダー楽曲『日常』から始まる攻めのセットリスト、各メンバーにフィーチャーした企画など、アンダーライブの真髄が詰め込まれていた。アンダーメンバーとして選ばれた13名が作り上げるステージには、唯一無二の価値が存在する。
今回のアンダーライブでは、「個としての力」というテーマを掲げた、メンバーフィーチャー企画が行われた。「思い入れ」、「新たな一面」、「個としての魅力」という3つのキーワードに基づき、メンバーは3曲パフォーマンス。選ばれた楽曲には、彼女たちが伝えたいメッセージが込められていた。例えば、「新たな一面」では、自ら殻を破り表現の幅を広げる狙いや、“苦手なこと”を払拭することもできる。さらに、「個としての魅力」では全メンバーがソロ歌唱を行わなければならない。メンバーそれぞれのスタイルで、自らの存在を証明することができるのもアンダーライブの魅力だ。
ここからは最終公演のメンバーフィーチャー企画で気になった選曲や、パフォーマンスを紹介していきたい。
トップバッターの4期生・林瑠奈は、「新たな一面」で『さ~ゆ~Ready?』を選曲。「思い入れ」で選んだ『嫉妬の権利』では持ち前の歌唱力を発揮していたが、一転して、超甘々なアイドルに振り切り、殻を破っていた。ショートカットでクールな印象を持たれる彼女の内にある、アイドル全力投球の姿は新鮮だった。ソロ歌唱の『車道側』ではアレンジを加え、観客にコール&レスポンスを求める演出も。今回のZeppツアーを心待ちにしていたという彼女だからこそ、真の実力を示す貴重な機会だったに違いない。
2人目の4期生・矢久保美緒は個人的に「思い入れ」があり、セットリストから注目していたメンバーだ。彼女が「新たな一面」というテーマで選んだ『雲になればいい』は、1期生の生田絵梨花、桜井玲香、衛藤美彩という歌唱力に定評があった3人が歌う曲で、「歌が苦手」と公言する彼女がこの曲を選んだことに驚き、パソコンのモニターの前で声を上げてしまった。実際にパフォーマンスでは、普段の特徴的な声や話し方が微塵も感じられない、自信にみなぎった力強い歌声から彼女の成長を感じられた。唯一4期生で選抜経験がない矢久保。アンダーとして活動した期間が長いからこそ、ステージ経験や誰よりもライブに向けて努力してきたことに裏付けされた、確かな実力を彼女は持っている。
5期生・岡本姫奈も先輩たちに負けていない。ソロ歌唱の『自由の彼方』では、持ち前のバレエ技術と高い表現力を存分に発揮している。「同じものにならないように、試行錯誤を繰り返した」と語っていた彼女。高いパフォーマンス意識から生まれる、ステージ上での彼女の真価が光っていた。
一方、吉田綾乃クリスティー、中村麗乃、向井葉月ら3期生のステージは、経験値から生まれる安定感、そしてグループ愛の溢れる選曲だった。
吉田は「新たな一面」で『低体温のキス』を選曲。普段の彼女がまとうフワフワした空気感ではなく、ロック調のメロディに乗せてエネルギッシュな歌声を披露した。また、『君と僕は会わない方がよかったのかな』のソロ歌唱では、安定感のあるゆったりとしたテンポに9年目の余裕を感じさせ、歌い終りの「ありがとうございました~」で普段通りの吉田に戻っていく。ブレないマイペースさこそが、彼女の魅力であり武器となる。
ミュージカル『Endless SHOCK』との2ステージだった中村は、体調不良のためダンスのみのパフォーマンス。ベストコンディションではない彼女だったが、もはやダンスだけでもステージを成立させるほどの表現力を持っていた。特に、自身のセンター曲『悪い成分』は圧巻。歌唱パートを他メンバーに託し、参加曲数を制限する中、一瞬の爆発力に全力を注いだ彼女のパフォーマンスだけでも、今回のアンダーライブを観た価値があると感じた。
そして、今回が最後のアンダーライブとなった向井葉月。16thアンダー楽曲の『ブランコ』と19thアンダー楽曲の『My rule』は、「アンダーに必要とされる存在になりたい」と掲げた彼女らしい選曲だ。「乃木坂46の全てを愛した」彼女は、アンダーライブを作り上げた先輩たちへの感謝とともに、推しメンである1期生・星野みなみが参加する『Threefold choice』を集大成のステージで披露していた。
4期生の松尾美佑は、もはや彼女の代名詞となった『錆びたコンパス』と、挑戦の曲と語る『もう少しの夢』、そしてコミカルな演出と、途中にダンスパートを組み合わせた『滑走路』のソロ歌唱を行った。抜群の運動神経と滅多に動じない精神力から、彼女はステージ上で全くブレない。今回のパフォーマンスからも安定感を感じられたが、今後の期待を込めて、彼女がリミッターを外して踊り狂う姿を見てみたい、と書いておきたい。潜在能力を解放して限界に挑む姿で殻を破ってほしい。
フィーチャー企画の最後に登場したのは、36枚目シングルのアンダーセンターを務める、5期生・奥田いろは。奥田のパフォーマンスを観て、「彼女は乃木坂46のメンバーになるべくしてなった」という感想を抱いた。『初恋の人は今でも』では、5期生から“彼女にしたいメンバーNo.1”の称号に相応しい、圧倒的なヒロインオーラを感じさせたかと思えば、「新しい一面」ではメタル楽曲『コウモリよ』を歌いあげ、最後は『左胸の勇気』でギターの弾き語りを披露。3曲全てで異なる一面を見せ、同時に高いクオリティだったのは、彼女の歌声は乃木坂46のどんな楽曲とも調和するという点にあると思う。キャプテンの梅澤美波が「乃木坂を具現化した子」と称する奥田の魅力が溢れたステージだった。
フィーチャー企画の後は、全員でアンダー楽曲をパフォーマンス。本編最後は今作のアンダー楽曲『落とし物』が飾った。同曲は、アイドルの“かわいい”を押し出す曲ではなく、乃木坂46のアンダー楽曲の全てが詰め込まれた曲だという印象を、「真夏の全国ツアー2024」を通じて感じていた。もちろんアンダー楽曲の中には、『自惚れビーチ』や『シークレットグラフィティー』などのチャーミングな要素が強い曲もあるが、『落とし物』は歴代のアンダー楽曲らしい葛藤や反骨心など、強いメッセージ性が込められている。サビ前の「ただ運が悪かった、誰に言い訳しているのか?」でペースを上げ、その後一瞬の静寂を挟む演出は、アンダーメンバーだからこそ出せる迫力と駆け引きがあった。奥田が憧れた先輩の2期生・北野日奈子センター曲『日常』がアンダーを超えて乃木坂46を象徴する1曲になったように、奥田センター曲の『落とし物』も、新たにアンダーを象徴する1曲になったと言っても過言ではないだろう。
最後に、ライブ序盤で佐藤璃果が述べたスピーチに関して触れておく。「普段はなかなか見つけにくい場所にいるかもしれませんが、ここでは全員が主役です」。これはファンの間で賛否両論が分かれる曲、『アンダー』の「みんなから私のことが もし見えなくても ~ 当たっていない スポットライト」という歌詞に重なると筆者は感じた。最終公演を観て思ったのが、彼女たちが“スポットライト”に当たる努力を怠っているのではなく、“スポットライト”を当てる側、彼女たちにサイリウムを振る側が努力を怠っているのではないだろうか。
『アンダー』の歌詞には、「アンダー いつの日にか 心を奪われるでしょう 存在に 気づいた時に」とも書かれている。アンダーメンバーは、いつスポットライトが当たっても大丈夫なように、準備ができている。あとは、観る側が色眼鏡を外す覚悟を持つだけだ。“覚悟”という大それた表現を使ったが、少しでも気になるなら、今回のアンダーライブはこれ以上ない絶好の機会になる。11月25日(月)と26日(火)のリピート配信を観てほしい。必ず彼女たちを照らしたくなるに違いない。
アンダーは、決して選抜から外れたメンバーの受け皿となる場所ではない。選抜とアンダーの両方で輝けるメンバーたちが、アンダーに選ばれた誇りと乃木坂46の歴史、そして“アンダー魂”を燃やし続ける場所だと気付いてほしい。
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