2025-06-04 20:30

【長嶋茂雄追悼企画】1975年、巨人軍創立以来初の最下位転落───。今から50年前、天下のミスターがやらかした究極のしくじりがその後のプロ野球を作った。

『究極!!しくじりプロ野球 ~本当にあった最弱球団の話』(白夜書房)

6月3日、「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さんが肺炎のため亡くなった。

今回は特別企画と題し、長嶋さんにスポットを当てた記事を紹介。BUBKA3月号(2025年1月末発売)に掲載され、『究極!!しくじりプロ野球 ~本当にあった最弱球団の話』(白夜書房)にも収録されている「1975年の長嶋巨人」から抜粋してお届けする。

かつて、1億人がワリカンした「国民的ズンドコ」があった。

1975(昭和50)年の長嶋巨人である。前年の開幕直後から、選手・長嶋ラストイヤーかつ来季からナガシマ監督誕生は既定路線という「さよならミスター興行」状態で、日本ハムの張本勲は「ぼくだって、招かれたら喜んで協力する。長島さんなら、巨人の監督はりっぱにつとまる」なんつってシーズン中にもかかわらずほとんど移籍志願で球団から“喝”。『週刊文春』も引退表明前から「長島監督に捧げたい『夢の全日本チーム』を作ろう」なんておせっかいかつ早すぎる侍ジャパン特集を組んでいた(当時の報道は“島”表記)。この年、巨人は前人未到のV10を逃し、74年10月14日の後楽園球場で、「巨人軍は永久に不滅です!」という球史に残る名台詞とともに背番号3はユニフォームを脱いだ……と思ったら、直後の11月から未曾有の長嶋監督フィーバーが幕を開ける。

38歳の青年指揮官は、V9を達成した偉大なドン川上哲治監督から自立しようと、コーチ人事に川上の推す人材をあえて採用せず、自らの意志に沿って首脳陣を組閣する。背番号3の陰に隠れて、ひっそりと引退した名捕手・森昌彦(森祇晶)にもポストは用意されなかった。これによりコーチ職を逃し再就職が遅れたOB連中が、ナガシマ批判の急先鋒と化していくわけだが、それはもう少し後の話だ。若きミスターは改革のために精力的に動いた。11月末には強打の“ポストナガシマ”を求めて渡米。大リーグのウインターミーティングで自ら外国人選手を探した。ユニフォームの胸文字は伝統の花文字から、サンフランシスコ・ジャイアンツ風の角形書体へ変更。ダブついたV9スタイルの着こなしではなく、体にフィットした男性的曲線美を意識したフォルムへ。伝説の背番号3から、息子の一茂が決めた背番号90を背負い、キャッチフレーズの「クリーンベースボール」は脱川上野球の象徴と注目を集めた。

12月に発足した三木内閣は「クリーン内閣」を掲げ、『週刊平凡』では長嶋人気に便乗した「私は今年ここをクリーンにします」特集が組まれ、ザ・デストロイヤーが「世界中ノ公害ヲビー・クリーン、ネ」と謎の宣言をかまし、ドラフト1位ルーキーの甲子園アイドル定岡正二も参加した多摩川の初練習には2万人近いファンと追っかけギャルが集結。宮崎キャンプでミスターは、18歳のゴールデンルーキーとの対談企画で、「サダオカ、初めてか? 洋服着るの?」なんつって昭和球史に残る洋服問答を繰り広げ、宮崎ネオン街のママたちの間では、可愛い年下の男の子「定岡の童貞を破る会」が結成されたという。

ドジャー・タウンを借りたフロリダのベロビーチキャンプへの注目度は高く、開幕前から週刊ベースボール増刊『ベロビーチに燃えた長嶋ジャイアンツ』が先走り緊急発売。もはや開幕前から、長嶋巨人のV1は決定的といった雰囲気だが、実は宮崎キャンプは初日から連日の雨に見舞われ肌寒く、狭い室内練習場や固い陸上トラックを惰性で走り込むハメに。風邪や故障者が続出しており、前年三冠王と絶頂期の王貞治もランニング中に足を傷めていた。渡米後もインタビューを受ける長嶋監督の傍らで、選手たちが麻雀に興じるユルさに記者陣も唖然。V9メンバーのベテランたちは「監督」ではなく現役時代のままの「ミスター」呼びするなど、恐怖政治の川上監督時代には考えらない光景に、距離感が近すぎると危惧する声もすでにあった。その上、自ら獲得交渉に当たった新助っ人勢も家庭の事情などでことごとく頓挫してしまう。

戦力補強もままならないまま、大黒柱の王は開幕直前に行われた川上前監督の引退試合を兼ねたオープン戦で左ふくらはぎ肉離れを発症。4月5日、巨人開幕スタメンからONが消えた。カツカレーのルーとカツがない、あっさり白米風なONのいないズンドコの極みのようなジャイアンツ打線。世代交代が急務のV9の出がらしのようなオーダーだったが、それでもミスターはなぜか試合前の走塁練習に参加して、「開幕からダッシュだ」と自ら一塁ベース付近から二塁へ向かって駆け抜けてみせた。“長嶋の現役復帰”という怪情報まで飛び交う中、大洋相手に開幕連敗スタート。エースの堀内恒夫は、同僚投手とじゃれあい首筋を痛める弱小校の高校球児のようなキャンプを送り、ミスターの提案で年頭から禁煙していたが、タバコをやめて食事が美味くなり気がつけば体重10キロ以上増。ウエートオーバーでキレがなく、精彩を欠き低迷する。代打出場が続いた王は4月19日の阪神戦からスタメン四番復帰。さらに“ポストナガシマ”には、純国産打線をかなぐり捨て、2年前にアトランタ・ブレーブスで43本塁打を放った大リーグ屈指の二塁手デーブ・ジョンソンを緊急獲得。だが、32歳のジョンソンは日本投手の攻めと慣れない三塁守備にも苦しみスランプに。そんな異国の地であがく大リーガーをケアして……あげるのではなく、ミスターはうら若き乙女のようにひとり悩む姿に「ジョン子ちゃん」と名付け突き放したことを自著『野球は人生そのものだ』(日本経済出版社)の中でカミングアウト。あの頃、みんな若かった。

4月終了時に4勝10敗3分で最下位に沈むチームの不甲斐ない戦いぶりに、燃える男・長嶋はベンチ裏のコンクリート壁を蹴りとばし足首捻挫。仕方がないから、サブマネージャーに「おまえ代わりに蹴れ!」と謎の指令を出す怒れる青年指揮官であった。5月5日には、監督自ら一塁コーチャーズボックスに立ち、オーバーアクションでナインを鼓舞するも空回り。故障明けの王は本調子からは程遠く14年連続のホームランキングは絶望視され、ジョンソンは8打席連続三振のどん底。唯一の明るい話題は、『週刊明星』がすっぱ抜いた長嶋ジュニアの息子・一茂が所属する田園調布小学校4年1組の野球チームが強すぎて、5年生や6年生にも連戦連勝……ってミスターの息子は日本国民の息子状態である。6月には首位広島に9・5差離され、OBたちはこぞって長嶋采配を批判し出す。…………

文/中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)

(『究極!!しくじりプロ野球 ~本当にあった最弱球団の話』、第1章「ズンドコの巨魁たち~昭和の章、「1975年の長嶋巨人」より)

この続きは『究極!!しくじりプロ野球 ~本当にあった最弱球団の話』または『BUBKA3月号のコラムパック』にて!

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