2026-07-24 17:00

松崎しげるが体現した“音楽は対話” 黒沢薫・中西アルノと紡いだ一夜の記録

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より
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ゴスペラーズの黒沢 薫と乃木坂46の中西アルノがMCを務める音楽番組『Spicy Sessions(スパイシーセッションズ)』。CS放送「TBSチャンネル1最新ドラマ・音楽・映画」にて、7月25日(土)夜11時30分からは『Spicy Sessions with 松崎しげる』が放送される。

今回、ゴスペラーズをデビュー当時からよく知り、数々のアーティストのオフィシャルライターを務める音楽ライターの伊藤亜希氏が同番組を取材。その魅力を紹介するオフィシャルリポートが到着した。

黒沢 薫(ゴスペラーズ)と中西アルノ(乃木坂46)がMCを務める『Spicy Sessions』は、ゲストの音楽的ルーツや音楽観を掘り下げながら、生バンドとともにその場でセッションを作り上げていく音楽番組。完成したパフォーマンスを披露するだけではなく、歌割りやアレンジについて歌い手とバンドが話し合い、音楽を立ち上げていく過程から見せることが、この番組の醍醐味(だいごみ)となっている。

第28回のゲストは松崎しげる

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「愛のメモリー」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「愛のメモリー」

第28回のゲストは松崎しげる。MCからの紹介を受け、ステージに登場すると、バンドメンバーに目配せをし、握手を交わし、「よろしくお願いします」というように一礼する。バンドを尊重するその様子に、松崎の音楽に対する真摯(しんし)な姿を見る。

松崎しげるは、1970年のデビュー以降、数々の名曲を歌い続け、ソウル、ポップス、歌謡曲を横断してきたスタンダードシンガーだ。松崎が、自身が高校球児だったことに触れ、甲子園には行けなかったが、選抜高校野球大会の入場行進曲として“夢を叶えてくれた”と1曲目を紹介。国民的大ヒット曲「愛のメモリー」を披露する。サビで真っ赤に染まるステージ。MC席では黒沢が一緒に口ずさんでいる。松崎が歌い終えると、「胸いっぱいです」と黒沢。“これ以上言葉が出てこない”といった表情だ。中西も「人って歌い続けていたらここまでいけるんだ」と、興奮気味の様子。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「愛のメモリー」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「愛のメモリー」

続くトークコーナーでは、黒沢が自身のラジオ番組で松崎と「愛のメモリー」を一緒に歌った話をし、「コテンパンにされました。大人と子供みたいな感じに」と当時の印象を明かす。

一方、中西は「小学生の頃、絵具に“松崎しげる色”というのがあって、持ってました!」と話す。「(絵具を)使った?」という黒沢の質問に「松崎しげるさんを描く時にだけ」と答え、会場を笑いで包んだ。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「Georgia On My Mind」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「Georgia On My Mind」

ゲストのルーツをトークで丁寧に掘っていくのも『Spicy Sessions』の楽しみの一つだ。両親の影響で幼い頃から洋楽に触れていた松崎しげる。ビートルズの来日公演にも足を運んでおり、スタジオに当時のパンフレットとチケットを持参。そのお宝に黒沢やバンドメンバーが目を輝かせる。野球に打ち込んでいた学生時代も、厳しい練習の後に這うようにレコードプレイヤーの前に行き、毎日レコードに針を落としていたという。松崎が熱心な音楽リスナーだったことが分かるエピソードが次々と飛び出す。

松崎が黒沢とのセッション曲に選んだのはレイ・チャールズの「Georgia On My Mind」。スタッフが譜面などをステージに運び込み、打ち合わせが始まる。事前に歌唱する曲は決めているが、歌も演奏も、収録日に初めて合わせる。『Spicy Sessions』は、このスタイルを貫いてきた。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「Georgia On My Mind」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「Georgia On My Mind」

ステージ中央で松崎と黒沢が、歌割りやバンドアレンジの方向性について相談を始める。バンドメンバーも加わり、「ここはこうしたらどうだろう」「もう少しシンプルに」とアイデアを交わしながら、1曲を組み立てていく。完成した譜面をなぞるのではなく、その瞬間に最適な形を探していくプロセスそのものが、この番組の魅力であり、その様子は、出演者全員が音楽を介して会話しているようでもあった。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「見上げてごらん夜の星を」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「見上げてごらん夜の星を」

「歌割りは、しげるさんの“ここ歌え”“あれ歌え”を聞けばいいと思うんですけど」と黒沢。松崎が「サビは1行ずつ歌おうか」など、テンポよく進めていく。途中で「一緒に(歌う)?」と松崎が言えば、「しげるさんに合わせて、僕が何かやればいいんですよね」と黒沢。うれしそうに「うん」と松崎。黒沢が観客に向けて「“後輩感”をかみ締めております」と言い、客席に笑いも。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「見上げてごらん夜の星を」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「見上げてごらん夜の星を」

そうして生まれた「Georgia On My Mind」は、松崎の力強くブルージーな歌声と、黒沢のソウルフルなボーカルが互いを引き立て合うセッションとなった。どちらかが主役になるのではなく、相手のフレーズを受け止め、呼吸を合わせながら、歌っていく中で音楽を育てていく。歌い終えた2人の表情から、予定調和ではないセッションならではの充実感が伝わってきた。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」

続いて、松崎が「坂本九さんと一緒に歌って、涙が出るほどうれしかった」と思い出を語り、中西と「見上げてごらん夜の星を」をセッションすることに。「このダミ声と天使のような声が」と、松崎が会場を笑わせる。中西はセッション曲について「父が好きだったから、生活の中にあった」とコメント。松崎は、歌割りやキー、フレーズの受け渡しを中西、バンドと丁寧に確認しながら、アイデアを重ねていく。そんな中、松崎からパフォーマンスのリクエストも飛び出した。バンドもウッドベースを準備し、2人がこれから作り出そうとしている世界観に寄り添う。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」

そうして始まった「見上げてごらん夜の星を」で、松崎は自身の圧倒的な歌唱力を誇示することなく、中西の透明感のある歌声を包み込むように歌う。坂本九が作品に込めた温もりを大切にしながら、一つ一つのフレーズを受け渡し、受け取っていくような2人のセッション。その歌声に、少しずつ気持ちが解放されていく様子が感じ取れた。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」

黒沢は、会場全体を穏やかな表情で見守り、最後の方では目を閉じてバンドの演奏と2人の歌に聴き入っていた。黒沢も中西も、バンドメンバーも、そしてゲストである松崎も、全員が熱心な音楽リスナーであるからこそ、セッションを楽しめるのだ。歌い終えた後、「(中西の声を)ずっと聴いていたい感じがした」と松崎。中西は「ハモのところがはまって、ステージングまでついて。オンエアが楽しみ」とコメントした。お互いの歌声への敬意が自然と言葉になり、セッションを通じて距離が縮まったのが分かった。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「I Just Can't Stop Loving You」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「I Just Can’t Stop Loving You」

松崎と一緒に歌いたい曲として黒沢が挙げたのは、松崎の「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」。1979年放送のTBSドラマ『噂の刑事トミーとマツ』の主題歌として親しまれた1曲であり、黒沢も「このドラマが大好きだった」という。「いつか一緒に歌いたいと思っていた。ついに歌える」と、喜びを隠しきれない黒沢。松崎は「この曲をやるってなって、もう1回調べてみて、いい曲だなと思いましたね」と笑顔を見せる。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「I Just Can't Stop Loving You」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「I Just Can’t Stop Loving You」

「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」のイントロがピアノで奏でられる。松崎と黒沢の円熟した歌声が真正面から向き合い、後半では黒沢がこの番組では珍しく、突き抜けるような全開のハイトーンを放った。そこには、この日も圧倒的な歌唱力を披露し、日本の音楽シーンの中で、男性ハイトーンボーカルのパイオニア的存在である松崎への心からのリスペクトがあったように思う。歌い終わり、がっちり握手を交わした松崎しげると黒沢 薫。お互いの満足気な笑顔が、セッションの出来を物語っていた。「バンドもお2人もエネルギーがすごい。近くで聴くことに価値がある歌」と中西が素晴らしいコメントを残した。

『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「I Just Can't Stop Loving You」
『Spicy Sessions with 松崎しげる』より「I Just Can’t Stop Loving You」

この日のラストを飾ったのは、黒沢と中西による「I Just Can’t Stop Loving You」。マイケル・ジャクソンとサイーダ・ギャレットによる名デュエットを選曲したのは黒沢だ。中西がマイケル・ジャクソンの楽曲を本格的に歌うのは今回が初めてだったという。

演奏が始まると、黒沢のソウルフルなボーカルと中西の艶のある歌声が、美しいコントラストを描き出した。松崎とのセッションを経たことで、互いの声を受け止めながら歌を組み立てる意識がより鮮明になっていたことも印象的だった。歌い終えた2人は自然とハイタッチを交わし、その表情からは、セッションを楽しんだ充実感がにじんでいた。

松崎しげるは今回の収録で、圧倒的な歌唱力を披露しただけではない。相手の声を聴き、バンドと対話し、その場で最良の形を探しながら音楽を育てていく――そんな姿勢を体現してみせた。「Georgia On My Mind」では黒沢と洋楽を分かち合い、「見上げてごらん夜の星を」では中西の歌声に寄り添い、「マイ・ラブ(I Gave You My Love)」では円熟した歌声で、リスペクトをリスペクトで返す。「音楽は人と人との間で生まれ、受け継がれていくものだ」ということをセッションで体現した一夜となった。

放送情報

<放送日時>
『Spicy Sessions with 松崎しげる』
2026年7月25日(土)午後11時30分~深夜0時30分

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