【『持っている人』&『J-POP丸かじり』W刊行記念対談】川谷絵音×西寺郷太、音楽について語るときに僕達の語ること

撮影/廣瀬拓磨
バンドのフロントマンであり、様々なアーティストに楽曲提供を行っている西寺郷太と川谷絵音。この度、両氏が同じタイミングで新著を刊行。「J-POP」をはじめとする音楽の解説/紹介者の顔もある2 人に、お互いの印象や、音楽を書く/語るという行為、執筆について語ってもらった。
ASKAという天才
――意外だったのですがおふたりはこれが初対面なんですよね。お互いの音楽活動をどのようにご覧になっていますか?
西寺郷太(以下、西寺):もちろん川谷さんのお名前は存じ上げていましたし、何曲かヒットした曲も知っています。単純にすごいなって思っていました。
川谷絵音(以下、川谷):西寺さんは僕がデビューしたときにはすでに長く活動していらしたので。僕の大学の先輩がノーナ・リーヴスのコピーバンドをやっていたんですよ。だから僕はコピーバンドを通じてノーナに入ったんですけど、すごくおしゃれな音楽という印象がずっとありましたね。今回のご著書を読んで、やっぱりめちゃくちゃ音楽を聴いてらっしゃるんだなって。
――お互いの執筆活動も認識されていましたか?
西寺:先日出版された本は読みました。自伝のようなところもあるので川谷さんのことがよくわかりました。
川谷:西寺さんが執筆活動をされているのはよく知っていました。音楽評論的なことをやっている方という認識もありますね。
西寺:僕の中での評論はなんというか、ストライクとボールをはっきり言うジャッジメントみたいな部分があると思っていて。良い悪いをちゃんと決められるのが評論なんだろうと。なので、僕がやっているのはあくまで紹介というか。「これが好きだから聴いてほしい」とか「これのどこが好きなのか教えます」みたいな。だからあまり得意じゃないものについては語ってきていないので、そこは逃げてるとは思っています。
川谷さんがよく出られている『EIGHT‐JAM』には僕も何回か出演したことがあるんですけど、やっぱりどちらかというと自分が好きなものを多くの人に知ってほしい、もっと深く好きになってほしい、みたいな思いの方が強いですね。
―― 川谷さんは西寺さんの『JPOP丸かじり』をお読みになってどのような印象を持ちましたか?
川谷:知らなかったことがいっぱい書いてありましたね。長瀬智也さんが曲全体の方向性のジャッジをしてデモを作ってくるとか、ぜんぜん知りませんでした。TOKIOは好きですけど、そこまで彼が手綱を握っていたんだなって。あと、大滝詠一さんのボーカルが風邪気味のときに録ったものを混ぜたりしているエピソードも興味深かったですね。本当に知らないことがいっぱい書いてあって。
西寺:ありがとうございます。
川谷:1988年と1999年の話がよく出てきますよね。僕は1988年生まれなんですけど、自分が生まれたときにリアルタイムで起こっていたことが多く書かれていて。後追いでしか知らなかったことのリアルをたくさん知ることができたのはめちゃくちゃうれしかったです。ASKAさんの宇宙のお話だったり(笑)。
西寺:ASKAさんは彼が新作を出されたときにインタビュアー的な立場で対談できないかって声がかかって。初めてそのときにお会いしたんですけど、今回の本に軸として対談があるのはスタート地点にASKAさんの対談があったからなんですよ。突き詰めた部分の話は最初にしたところから始められたこともあって、いま改めて読んでもおもしろいものになっていると思います。ASKAさんとはこのあとですごく仲良くなったんですよ。
川谷:ASKAさんの話はめちゃくちゃおもしろかったですね。プロなんだからみたいなところで、ちょっとがんばらなくちゃって思いました。うん、そうだよなと。
西寺:こんなこと言うとアレですが……あくまで僕の感覚ですけど、川谷さんは作品を聴く限りすごくASKAさんに近い人だなって思ったんです。30年後のASKAさんというか、やっぱりお互いに天才だと思いますし。ASKAさんがおっしゃっていたのは、自分はすごく不器用でまだやり方が確立されていないなかで穴を掘っていって、それは変なかたちの穴ではあったけど後続の人たちがちゃんと舗装してくれて自分がやってきたことをきれいにしてくれたんだって。
日本で全国的に流行る歌を作る、川谷さんの著書にも書かれている「もっと売れたい」とか、小学校の運動会で踊るような曲を作る!という執念、ハードワーク、集中力が近いと思うんです。ご本人が意識されているかどうかは別として。これは僕にとって最大級の褒め言葉なんですけどね(笑)。本当にすごい人っていうのはこういうタイプだよなって。
川谷:いやー、恐縮です。
西寺:理屈ではないっていうかね。川谷さんの本を読んでいて似てるなって思ったんです。川谷さんはもともとJ‐POPが好きだったみたいですけど、僕らぐらいの世代のミュージシャンだとレコードをたくさん持っているとか音楽に対するオタク度でいくと洋楽リスナーがほとんどで。日本の音楽は街で流れているのを聴く程度みたいな人が多かったんですよ。川谷さん、本の中でギターは誰でも練習したら弾けますって書いていたじゃないですか。
川谷:ああ、はい(笑)。
西寺:楽器はやろうと思えば誰でもできます、みたいな。実際そうなのかもしれませんけど、ASKAさんもずっと剣道をやっていたのに急に曲作りを始めたんですよ。量的には音楽を知らないはずで。それがギターの弾き語り的なスタイルでデビューして、いつの間にかキーボードも習得されていて。ProToolsの前身みたいな機械も使いこなしていて、あれだけ忙しいのに7年程度で楽器も弾けるようになってなぜこんなに変わることができたのかって聞いたら「郷太くんはまだギリギリな状態を体験していない」って言われて。
川谷:あー、それ書いてありましたね。
西寺:それは本を読みながら川谷さんに思ったことでもあるんですよ。僕も一生懸命がんばってきたつもりだけど、ASKAさんに「ギリギリの状態を体験していない」って言われたらそうかもしれないって認めざるを得ないなって。
川谷さんにしてもindigo la Endだったりゲスの極み乙女だったり、プレッシャーもある状況の中で常に上昇していくエネルギーを生み出せるのはそういう状況に身を置いてきたからなんだろうなって思ったんです。だからいまのような存在になれたのだろうし、ASKAさんのことをおもしろいとおっしゃったのもすごくよくわかるというか。
川谷:恐縮です、としか言いようがないですね。ASKAさんとはお会いしたことがないし、僕がどこまで理解しているかはわからないですけど、西寺さんとの対談を読んでいると「きっとこういう人なんだろうな」ってイメージが湧いてきて。共通の知り合いはいるんですよ。でも、なんとなく怖くて会えない人のひとりですね(笑)。フェスで一度お見かけしたんですけど、背が高くて遠くから見てもすごく大きく感じて。
西寺:なんか体が樽みたいなんですよ(笑)。僕は日本のボノ(U2)って呼んでるんですけど、あの体だからあんな声が出るんだなって。結構ごついんですよね。太っているというわけではなくて、骨格がでかい。
川谷:確かに骨が太いイメージがあります。会ってみたくなりましたね。この本を読むとお会いしたくなる。
西寺:ASKAさんについて書かれた文章ってあんまり無いんですよね。LUNA SEAとかもそうですけど、今回の本で僕がやりたかったことは文章でちゃんと書かれたことがないアーティストをしっかり取り上げることだったんです。旧ジャニーズの曲もそういう部分がありますよね。
川谷:SMAPなんかもそうですよね。僕がSMAPに提供した曲で『好きよ』という曲があるんですが、ひとりずつ歌うめずらしい構成だったんですよ。彼らは本当に一人ひとりがまったく違う声をしていて、そういうグループはなかなかいなくて。以前に近田春夫さんが事務所はそういうSMAPの魅力に気づいていないって書いていたことがありましたね。あと、僕はRIP SLYMEに結構な衝撃を受けた世代なんですけど『楽園ベイベー』の裏話はまったく知りませんでしたね。ああ、そういうことだったんだなって。めちゃくちゃ知識が増えました。
西寺:僕らがワーナーと契約終了するぐらいのタイミングでRIPSLYMEが出てきたんですよ。それで彼らのサンプル盤を何気なくもらって家で聴いたら「ヤバい!」ってなって。当時ワーナーにはRIPRIPSLYMEの他にもKICK THE CAN CREWやスケボーキングもいましたけど、彼らのようなポップなラップグループの登場は自分にとっても衝撃度は高かったですね。

撮影/廣瀬拓磨
川谷絵音プロフィール
1988年、長崎県出身。indigo la End 、ゲスの極み乙女、ジェニーハイ、ichikoro、礼賛のバンド5グループを掛け持ちしながら、ソロプロジェクト「独特な人」「美的計画」、休日課長率いるバンドDADARAYのプロデュース、アーティストへの楽曲提供やドラマの劇伴などのプロジェクトを行っている。
西寺郷太プロフィール
1973年、東京生まれ、京都育ち。NONAREEVESのシンガー、メイン・ソングライター。音楽プロデューサー、作詞・作曲家としても活動。著書も多く、代表作に『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』(新潮文庫)、『プリンス論』(新潮新書)、自伝的小説『‘90S ナインティーズ』(文藝春秋)など。2024年、公式YouTubeチャンネル『NGC』を開設。
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