2025-05-14 11:50

【吉田豪インタビュー】井上富雄、過去のものはそんなに引っ張らないでいきたい

井上富雄
井上富雄
撮影/河西遼
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プロインタビュアーの吉田豪が、井上富雄にインタビューを実施。現在でも根強いファンが多いザ・ルースターズ、そして当時としては新しすぎた音楽性のブルー・トニックなどのバンドで活動した井上富雄に、吉田豪がこれまでの音楽人生を深掘りします。

ひとつ屋根の下で

――『ルースターズの時代』(24年にシンコー・ミュージックから発売された、今井智子によるルースターズのメンバー&関係者へのインタビュー集)、読みました。あの中では井上さんの発言が一番客観的で、余計なことも言ってておもしろかったですね(笑)。

井上富雄(以下、井上):あ、そうですか? 俺もこういうのやるのは最後だろうなと思ったし、誰もしゃべらないだろうなと思って。リバイバル的にルースターズの話ってチョコチョコあるんですけど、自分的にはもう終わりにしたくて、いろいろ赤裸々に言っちゃえって感じでした。

――「元メンバーのなかで僕が一番アンチルースターズ」という発言もありましたよね。

井上:だからそういう意味も含めて、あまり引きずりたくないというか。自分が次に新しいことをやってもルースターズと比較されるじゃないけど、ルースターズファンはなんか違うなっていうふうになるし。そういう意味では邪魔といえば邪魔なものでもあったな。

――当時おもしろいことをやってた自信はあるけれども、それだけじゃないぞっていう。

井上:そういうところからなんでしょうね。

――この客観性は他のメンバーと年齢差があったことで身についたものなんですかね?

井上:うん、一番年下だったし、自分がイニシアチブを取ってバンドのなかで何かすることはあんまりなかったんで。九州出身だし年功序列って厳しいものがすごいあったから。

――北九州は、やっぱりそこが厳しい。ましてや3歳違うと相当だったんでしょうね。

井上:そうそう、ヒエラルキーが厳しいので何か意見があっても出しづらい環境ではないんだけど、自分から控えていたというか。だからどうしても俯瞰で見てる感じになって。

――最初は大江(慎也)さんがやっていた人間クラブにベースで誘われるわけですけど、問題は前にいたベーシストがヤクザに追われて逃げたってエピソードなんですよ(笑)。

井上:それも僕は詳しく知らない(笑)。本ではちょっと大げさに話しちゃいましたけど、借金をこしらえたらしくて、それが原因でヤクザに追われたのか、とりあえずいなくなったということで「やってくれないか?」と。当時、僕はまだ高校2年とかで、人間クラブはみんな東京に出てプロとして活動したいって意気込みを持ってたんですよ。俺は高校をやめてまでそういうことしなくていいやって思いがどっかであったから、「俺は卒業するまでは九州にいるわ」って言って、じゃあもっとフットワークの軽い他のメンバーと一緒にやろうってことになったんだと思う。

――そしたら次はルースターズに誘われて。

井上:人間クラブが解散して、大江がまた新しいバンドを作るのでベースを弾かないかってことで、ベースは持ってないけどどっかから持ってくるところから始まって(笑)。そのときに大江、池畑(潤二)、花田(裕之)、僕というコンパクトな4人編成のバンドでブルースのカヴァーとか、ローリング・ストーンズのファーストアルバムみたいなのをタイトにやろうってことになったんです。

―― 現代的に解釈したストーンズというか、パブロック的な感じを目指したわけですね。

井上:うん、そういうことをやってるのが楽しかったんですよ。僕らは世代的にもハードロックとかから入って、ちゃんと練習して腕を磨いて音楽をやらなきゃいけない的に思ってたところに僕が16 〜17 歳でパンクが来て、もちろん衝撃を受けて、ピストルズとかダムドとかいろいろパンクバンドのカヴァーしてライブやったりしたんですけど。それほどパンクにはのめり込まなかったの。そんなときに大江からルースターズの話があって。

――音楽や衣装のコンセプトは、ほとんど大江さんが決めたって考えてもいいんですか?

井上:ほぼそうですね、100パーセントと言っていいくらい大江慎也のアイデアです。パンクっぽいファッションではなくて、パリッとしたというよりは細身のスーツでパブロック的な要素のあるファッションというか、ちょっとやさぐれてるような感じでね。

――そして雑誌『ROCK STEADY』のコンテストでラフォーレ原宿でライブをやってレコード会社に声を掛けられるわけですけど、日本コロムビアの前にビクターから目をつけられて、そのとき第二のザ・タイガース(注1)として売り出されそうとになってたんですよね。

井上:当時はレコード会社にそういうロックの分野ってなかったんですよ。いまはビクターといえばスピードスターとかあるけど、当時はレコード会社といえば歌謡曲なんです。

――せいぜいわかるのはGSぐらいという。

井上:だから第二のタイガースみたいにって(笑)。それは大江がぜんぜんおもしろくない。デモテープまで録ってたわけだから、そこそこ話は進んでたとは思うんですけどね。そこは僕も経緯はよく知らないんですけど。

――じゃあ、所属事務所がジェニカミュージックに決まる流れもよくわかってはいない。

井上:はい。もともと地元の楽器屋さんがあって、楽器部門のボス的な存在の人がいて。松田楽器店っていう、レコードも楽器もたくさん売ってる店の地下に小さいリハスタがあって。そこのボスみたいな人が「自分が面倒見る」的な、事務所を作って一緒に東京行ってなんかやろうみたいなことになったので、僕はそのへんは一切関知してないし、大江とその人のやり取りのなかでそう決まって。

――本を読むかぎり、その人も正直「ん?」と首を傾げる部分がありそうな人ですよね。

井上:そうなんですよ……。先々はいろいろと問題ありな人だったんですけど。

――「東京に行く交通費を出したから俺にも権利がある」的なことを言い始めて、レコード会社の前払金を全部持ってっちゃったり。

井上:とかいろいろね。うちら給料いつ上がるんだろう?っていう状況でした(笑)。

――その人がお金を取っちゃってるから。

井上:結局その人がいろいろやってくれて東京に出てきて、そしたら柏木(省三)さんっていうプロデューサーがルースターズのことをすごい気に入って、その人はサンハウス(注2)のマネジメントもやってて、じゃあ話が合うね、みたいなことで。大江は会った瞬間からすごい信頼を置いてたし、その人がジェニカミュージックに所属してて。当時のジェニカミュージックはゴダイゴ(注3)がすごく売れてる頃で、(過去にミッキー吉野が在籍していた)ゴールデン・カップス流れのスタッフもいたし、いまのスマッシュ(注4)の日高(正博)さんとかトムス・キャビン(注5)の麻田(浩)さんとか。

――そうそうたる人が集まっていた。

井上:みんなそのとき仕事にあぶれてたんでしょうね(笑)。そういう人たちが全部ジェニカミュージックにいて、もうひとつ自分たちの個人事務所があって、二重事務所みたいになってたんですね。当時のマネージャーの給料はうちらの個人事務所から払うので、ジェニカからは直接何かプロダクション的にお金をもらうとかなかったのかあったのか。

――ゴダイゴが当たってるときだから、ちゃんと支払われてしかるべきなんですけどね。

井上:僕らもまだお金のことぜんぜんわかってないから。とりあえずなんか話が進んでるからいいんじゃない?って感じだった。

――メジャーで出せればいいや、ぐらいの。

井上:うん、ホントにそんな感じ。

――ゴダイゴとの関係はどんな感じでした?

井上:単純に事務所の先輩で。ゴダイゴは当時、テレビ番組を持ってたんですよ。そこで「僕らの弟分のバンドがデビューしました、ルースターズ」って宣伝してくれましたし、タケカワ(ユキヒデ)さんの家のスタジオに、デモテープ作りたいんでってことで俺と花田で行って楽器弾いてデモテープ作るの手伝ったりして。

――プロデューサーの柏木さんにもちょっと引っかかる部分があって、正直言うといい話も悪い話も聞く人だと思うんですけど……。

井上:そうですね。でも、バンドに対しては一生懸命やってくれてたと思う。プロデュース力もすごかったと思うし、こうしたほうがいいんじゃない?とか、アイデアはたくさん出してくれたし。ただ、柏木さんも金銭面で昔から問題ありの人っていう噂はあって。

――あ、当時から聞いてはいたんですか?

井上:うん。だから当時、サンハウスのメンバーの方とかに会うと「柏木には気をつけといたほうがいいよ」って話は出たりして。

――そんな状況だったとしたら、東京に来たもののいきなり不安だらけじゃないですか。

井上:まあ、僕はお金のことわかんないし。

――まだ若いし、楽しいが勝っていた?

井上:ですね。

――みんなで一緒に暮らした結果、下の人や隣の人からしょっちゅう苦情が来る毎日で。

井上:苦情はホントすごかったです。いま新しい環状線ができて、首都高が渋谷の手前くらいで地下にもぐるようになったじゃないですか。あれのちょうどグルグル回るところが全部立ち退きになって、あそこにマンションがあったんですよ。246沿いの10 階くらいだったのかな、一番上だったと思うけど。いま考えればなんでそんなとこにちょっと高い家賃払って4人で住んでたんだろう。たぶん東京のことマネージャーとかもぜんぜん知らないから、いま思えばもっと田舎に住んどきゃよかったんじゃねえの?っていうね。

―― そこで首都高に走ってる車をめがけて生卵投げたりレコードやギター投げたりして。

井上:そうですそうです。もちろん毎日じゃないですよ、1回だけの話ですけど(笑)。あんまり言うと、40 年前とはいえもしも事故に遭った人がいたらたいへんなんで。

―― プロレスごっこは日常だったんですか?

井上:それは酔っ払うと池畑がマネージャー捕まえて投げ飛ばしたりしてました(笑)。

――ダハハハハ! だからあの人はケンカでブレーンバスターとか出せるわけですね。

井上:そうですそうです(笑)。

――ふつうに使えるようになってる(笑)。

井上:でも、あのときみんなキツかったとは思います。最初は楽しかったんですよ、修学旅行みたいな感じで。ただ大江がいかんせん曲も書かなきゃいけないとかいろいろあっただろうし、こんなうるさいところじゃ何もできねえよっていうのは絶対にあったと思うし(笑)。わりと早めにひとり抜けましたね。

―― 当時の大江さんのインタビューで、「いまの時点の目的は給料を上げること」って言ってて、それくらいの状況だったんですね。

井上:まあ、そうですよね。当時ひとり5 万円か。でも、ほとんど一緒にいてレコーディングやライブのときの食事代とかは出るし、部屋代も出してもらってるし。食事は池畑が事務所からお金をもらって、よくみんなのぶん作ってたんですよ。なので生活面としては食うものがなくて死ぬ、みたいなことではなかったんですけど。とりあえず当時は小さいライブハウスでもたくさん周って、その日のチャージバックもらって、それでご飯食って飲んで、みたいな感じだったと思うんです。

井上富雄プロフィール

1961年生まれ。福岡県出身。80年にザ・ルースターズのメンバーとしてデビュー。84年のバンド脱退後、自身がリーダーを務めるブルー・トニックを結成。89年の解散後は、ベースプレイヤーとしてオリジナル・ラブや小沢健二、椎名林檎など多くのアーティストのレコーディング、ライブに参加。最新ソロアルバムは23年発売の『Diamond Planet』。

記述注釈

(注1)ザ・タイガース…67年にデビューした日本の代表的グループ・サウンズ(GS)のバンド。71年に解散。沢田研二や岸部修三(一徳)、岸部シローらが在籍していた。

(注2)サンハウス…70年にボーカルの柴山俊之、ギターの鮎川誠を中心に結成されたブルーズロックバンド。75年にアルバム『有頂天』でメジャーデビュー。78年に解散。

(注3)ゴダイゴ…76年メジャーデビュー。78年にテレビドラマ『西遊記』のエンディングテーマ『ガンダーラ』、同オープニング『モンキー・マジック』、79年に映画『銀河鉄道999』の同名主題歌が大ヒット。

(注4)スマッシュ…日高正博が創業した日本のプロモーター会社。97年から「フジロックフェスティバル」を開催。

(注5)トムス・キャビン…麻田浩が76年に創設した「小さなプロモーター」。トム・ウェイツやトーキング・ヘッズ、エルヴィス・コステロなどをいち早く日本に招聘した。

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