2025-03-28 18:00

「今しかないぞ!」上西怜がNMB48のセンターを強引に掴み取った日

『卒業コンサート』を終えた上西怜
『卒業コンサート』を終えた上西怜
ⒸByakuya Shobo Co.,Ltd 2025

今月27日、NMB48の上西怜が大阪・オリックス劇場で卒業コンサートを行った。会場には姉で同グループ1期生の上西恵や、同期の卒業生が登場するなど、仲間に温かく見送られた卒業コンサートだった。

別件のため、会場に駆けつけることはできなかったことは返す返すも残念だったが、上西怜はとても勇気のあるアイドルだったと思っている。

数年前の上西には、まだ決定力がなかった。グループのエースとしての、センターになるための決定力だ。同期と比べても先を走っているメンバーがいた。3人ユニット「LAPIS ARCH」のメンバーに抜擢されたまではよかったものの、実質的に3番手だった。ソロで1st写真集を出版してもなお、その決定力が埋まることはなかった。

やる気は果てしなく満ち溢れてはいた。そのやる気をどう使ったらいいのか、その手段を見つけられていなかった。グラビアが最大の武器だったとはいえ、だからグループのセンターに立てますというほど現実は甘くなかった。

私はどうやって彼女の背中を押してあげられるのだろうかとあれこれ思案していた。彼女にしてみれば、撮影時のインタビューでたまに会う人というだけで、そんなことをされる義理はない。しかし、放っておけなかったのもまた事実だった。

2021年夏、その機会が訪れた。ちょうどグループから白間美瑠が卒業するタイミングだった。最後の1期生が卒業することで、NMB48は今後どうなるのか。そんな時期だ。上西怜はグラビアで頭角を現しているものの、何らかの一押しが必要だった。

私は考えに考えた挙句、その一押しは勇気ではないかと考えた。その勇気は、かつて白間先輩が見せてくれたものだ。白間は、渡辺美優紀が卒業する際、コンサートで「私がNMB48を引っ張っていく」と宣言した。後日、白間に話を聞くと、人が変わっていた。加入当初、泣き虫だった中学生の姿はどこへやら。自信満々なのだ。「男子三日会わざれば刮目してみよ」ではないが、たった数日で自信を手にしていた。その自信は、勇気を出して宣言したからだった。

私はその勇気を上西怜にも持ってほしかった。勇気を持って行動に移せば、自信がわいてくるからだ。その自信こそ、彼女が立ちたかったセンターに立つために最低限必要なものだった。2021年夏のインタビューで、私は「白間は勇気を持った結果、人が変わった」という話をした。

上西はしばらく下を向いて、テーブルの一点を見つめ考え込んでいた。何を考えていたかは想像に難くないが、私はそれ以上、具体的な提言はしなかった。

その取材から2週間後、上西怜はコンサートでセンター奪取宣言をした。「センターも空いてます。私もそこに立ちたいです。私だってNMB48のセンターに立ちたいと思っています!」と言い放ったのだ。それは、普段の彼女の声のボリュームからは考えられない大きさだった。会場は大拍手に包まれた。

私はこのコンサートを配信で見ていた。「ここしかない。言え!」と強く願っていた。なけなしの勇気を振り絞ったセンター宣言は、ファンにもメンバーにも届いたはずだ。何人かのメンバーは上西怜に駆け寄り、その勇気を称えたという。

その半年後、上西怜はNMB48のシングルのセンターに立つことになった。Wセンターという形ではあったが、センターの座を強引に引き寄せた。

アイドルにはかわいさ、ダンス、握手対応などいくつもの才能やスキルが要求される。だが、それらが完璧だったとしても、センターになれるとは限らない。これら以外に必要なのは、勇気とタイミングだ。どのタイミングで何をするか、だ。少なくとも白間美瑠と上西怜はそうだった。

そして、その勇気はファンの心に刻まれる。推しじゃないとしても、「大会場であんな宣言ができるあいつはすごい」という評価につながる。運営によるサプライズよりも、メンバーの勇気ある行動のほうが心に残る。白間も上西も宣言の前はこれまでに経験したことがないほど緊張していた。しかし、2人とも試練を乗り越えた。勇気ある者にはセンターの称号がよく似合う。

そんな人は、アイドルを卒業してからもやっていけるはずだ。アイドル人生9年弱。あの日の勇気を彼女は覚えているだろうか?

取材・文=犬飼華

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