【吉田豪インタビュー】アフロ「客に笑われ、引かれ」異常なまでの熱さと勘違い力で東京で生き延びてきた男の半生

撮影/河西遼
吉田豪のミュージシャンインタビュー連載に、アフロが登場。一度聴いたら忘れない、異常なまでの圧と熱さのこもったラップでMOROHAとして日本武道館までたどり着いた上京物語。2024年末のMOROHA活動休止から、生身の「37歳、無職」として今日も魂をむき出しにする。
本日、6月12日にエッセイ集『東京失格』発売ということで、大ボリュームインタビューから抜粋してお届けします!
岩手のハスラー
――前に会ったことあるのは覚えてます?
アフロ CDをお渡ししてますよね。
――そうです、1stアルバムを。
アフロ 『やついフェス』でしたっけ?
――はい。2013年とか14年でした。
アフロ だから、こうやって時間かかるものなんだなと思いました、ちゃんと出会うまでに。失礼なことは言ってませんでした?
――いや、いま思えばキャラどおりでしたよ。ガツガツした圧と熱さで(笑)。当時は存在ぐらいしか知らなくて勝手にクールな感じだと思ってたら、いきなりCDを渡されながら、ものすごい熱いプレゼンをされたんですね。「絶対いいんで!」みたいな(笑)。
アフロ ハハハハハ! いろんな人にCDをめちゃめちゃ渡すんですけど、周りのバンドもCDたくさん渡してるんで、やっぱり全部は聴かないだろうなと思ってたんですよ。だから、渡すときに(圧のある表情で)「これめちゃめちゃいいんで絶対に聴いてください!」って言って渡すじゃないですか。こう渡して手を出してもらって、そのときにもう1回CDを引いて、相手が「え?」って顔したときにまた目をグッと見て、(圧のある表情で)「たくさんもらうと思うけど、これは最高なんで絶対聴いてください!」って言って渡すっていうのを自分で決めてたんで。
――圧が強すぎるんですよ(笑)。それは営業マン時代に学んだノウハウなんですか?
アフロ 骨身に刻まれたものかもしれないですね。すみません営業やってたことまで知ってもらってて。ミュージシャンってもっとドカッと構えてるべきだと思うんですけどね。
――よくカリスマ感を出すのが夢だった、みたいなこと言ってますけど、カリスマ感を出したい人はまず光通信に入って営業力を身につけようとは思わないわけじゃないですか。
アフロ ハハハハハ! それは曲のなかで説明すれば大丈夫と思ってたんですけど、ダメでしたね。実際は世のカリスマと言われていても、裏ではやるべきことやってる人はたくさんいると思うんで、そういう意味ではやっぱり営業力は必要だったと思うんですけど、俺のはちょっとむき出しすぎたっすよね。
――それがちゃんと結果を出してますよね。
アフロ どうだったんでしょうね? 売り込めば売り込むほど安く見られるっていう現実もあったので。当時の俺はそういうこともわかってなかったから、もうちょっと上手にやれよっていま言えるなら言いたいですけど。
――ちょっと雑な扱いをされたりもした。
アフロ やっぱね、こっちから「ぜひ!」って売り込んだフェスとかは呼ばれないですよ。自分がまだ知らなかったフェスのほうがスッとオファーくれたりして、だから難しいですね、人の心って。女の子もそうなんですよ、ガンガン連絡してるとやっぱり、「こいついつでもいいや」みたいになって。
――恋愛でも音楽でも、もうちょっとミステリアスな空気を出したほうがいい、と。なので圧とか暑苦しいとかが最初の印象でした。
アフロ そうですよね、自覚あります。クールにやりたかったんですけど、まず声にビックリしちゃって。自分で自分の声を録って聴いたとき、Zeebraみたいなイメージでやってたんですよ。それが聴いたら「なんだここのピカチュウみたいな声!」と思って。6人MCだったんですけど、俺のパートだけ夕方5時のアニメ感あるなと思って、それがすごい嫌で。でも、しょうがなかったですね。
――当時は歌詞の方向は違ったんですか?
アフロ いや、もっとカッコつけてました。いわゆるラッパーな歌詞で。
――やってもいない悪事をアピールしたり。
アフロ それこそコンピレーションアルバムとか誰か作ってほしいですよね。ラッパーがやってもいない悪事についてラップしてた頃の音源。ぜんぜんそんなことないのに。岩手でライブしたときオープニングアクトがすっごい若手のラッパーの子たちで、ライブ聴いてるとやっぱり大麻がどうだとか、そういうシティのハスリングの話をしてるんですけど、打ち上げで話したら実はそんな生活じゃない、と。「じゃあおまえ、どうやって身を立ててるんだ」って言ったら、「ウニの密漁をしてる」って言ってて。
――それを歌ったほうがリアルでいいのに!
アフロ ホントにそう! モジモジくんみたいな真っ黒い格好で、頭にライト着けて夜中に海に飛び込んで、岩場に張りついてるウニとかカキとか解禁前に採って、それを地元の小料理屋さんに持っていくんですって。小料理屋さんももちろんわかってるけど、知らないフリして買い取ってもらうっていうことをやってて。ちゃんと巡視船みたいなのがいて、ファッとサーチライトで照射されて、ルパンみたいにブワーッと逃げて。だから絶対そっちのほうがカッコいいしオリジナルだしおもしろいからやったほうがいいって言ったんだけど、彼らは「そんなのヒップホップじゃない、ダサすぎる」って話で。
――もったいないなー。
アフロ それが8年くらい前なんでいまは考えが変わって歌ってるかもしれないけど。でもそこから8年経って大人になってまだ密漁やってたら、もう取返しつかないですよね。
――ですよね。最初に見栄を張ってたのが、「あれ? 俺はこっちじゃないな」って気づいたのはどれぐらいの時期だったんですか?
アフロ 美容師の専門学校行ったら、周りにあんまり馴染めなくて。そのときに気づいたっすね。自分のことを書こうと思うようになったというか、書かざるを得ないようなメンタリティになったっていうのが正しいかもしれないです。長野の村から東京に出たら何か変わると思ってたのに、べつに変わらないしつまらないままだから。それまでは正直、全部田舎のせいにできたわけですよ。俺の人生つまんないのは田舎のせいと思ってたけど、東京に出て俺のせいだったんだと思ったときにようやく地に足が着いたんだと思います。
――他人ではなく自分に刃を向けてみよう、みたいな。ドラマの主題歌やってたせいもありますけど、アフロさんはホントに『宮本から君へ』(注1)感が強い人だなと思うんですよ。
アフロ ホントっすか?
――ジャケ描いてもらうだけのことはある。
アフロ 新井英樹(注2)先生がね。うれしい限り。
――この暑苦しさも含めて、ほぼあの漫画だと思うんですよ。最初は受け付けない人もいるだろうけど、妙にひっかかるというか。
アフロ ありがたいですね。小学校ぐらいかな、『宮本から君へ』は親父の本棚にあって読んで。最初、俺もこれは無理かもと思いましたもん。すんなりと入れないっすね。その横に安達哲(注3)さんの『さくらの唄』があって。
――お父さん、そっち系なんですか?
アフロ 親父は漫画好きで。あんまりそういう印象のある親父じゃないんですけどね。
――一応文化的な影響も受けてはいる。
アフロ だと思います。

撮影/河西遼
ラップで自己暗示
――話を戻します。『宮本から君へ』的な部分が自分にもあるといまは思ってますか?
アフロ そうですね、『宮本から君へ』的な部分を解釈すると、不都合に目を向けるみたいな、人間のエグみみたいなところで向き合うけど、そこでダウナーなところで結論を出すんじゃなくて、そこから光を見るっていうことだと思うんですけど。それはずっと曲のなかに閉じ込めようとしてました。
――結果として、ここまでかなり特殊な道というか、先人のいない道を歩いてきたわけじゃないですか。最初は王道のヒップホップやりたいっていう思いがあったはずなのに。
アフロ もちろんそこにあこがれはありますよ。いまだに一線でやってるラッパーの立ち居振る舞いとか見て、最初こうなるはずだったんだよな、みたいなことは思いますけど、消去法です。やっぱ俺、あきらめた数が自分の道を作ってくれたっていう感覚があって。このやり方では絶対この人には勝てないから俺これできないわって削いでいった結果、どんどん自分がやるべきことが見つかって。
――最初はプロ野球選手の夢をあきらめるところから始まってるわけですからね。
アフロ ホントそのとおりですよ。
――巨人軍に入っているはずだったのに。
アフロ 無茶苦茶深いところまで知ってくださってるじゃないですか! そこは叶わなかったけど、不思議と別の道でその場所に立てたりすることってあるんだなと思って。すごい昔、ジャックスカードのCMに出たんですけど、そのCMが野球場でも流れたんですよ。野球選手としてビジョンに映るはずだったのが、音楽を頑張ったらここに映れた、みたいなことがいろんなケースであったから。
――そもそも音楽じゃなくてもよかった人でもあったわけですよね。とにかく何者かになる、みたいな思いが最初はあったという。
アフロ ああ、そうかもな、手段でした。でも、それはみんなそうじゃないですかね。
――だからといって、路上で人生相談をやるぐらいの漠然とした活動はなかなかしないと思うんです。これどういう流れなんですか?
アフロ それこそ何者かになるんだっていうところです。何者かになりたいなと思って、だから自分探しにインド行くみたいなノリで、とりあえずなんでもやってみようって。
――それはひとりでやってたんですか?
アフロ UK(注4)も一緒に人生相談受けてました。でも、相談してくれた人の前で俺たちの意見が食い違うからケンカになったりして。
――人生相談はどれくらい続いたんですか?
アフロ いやぜんぜん。そんなの気まぐれで2~3回やったぐらいのもんですよ。
――手応えは?
アフロ ないですよ。だって20歳ぐらいのヤツにそんな言われてもね。
――人生経験もろくにないのに
アフロ ないし。ぜんぜんダメでしたね。
――そこからよく修正できましたよね。
アフロ これ、けっこうテンプレートのスタート地点だと思ってるんですけどね。
――え? 聞いたことないですよ(笑)。
アフロ みんな言わないだけでなんかやってますって。豪さんがインタビューしてるヤツらはカッコいいエピソードばっかりしゃべろうとするから言わないだけで、きっとそういうの何かあるはずですよ、俺の人生相談的なヤツ。自分の特別感の延命処置みたいなとこありますね、変なことやるっていうのは。
――曽我部恵一(注5)さんに刺さってCDデビューするまではどんな状態だったんですか?
アフロ アコギとラップでクラブで活動してましたね。
――当然アウェーなわけじゃないですか。
アフロ だからもってこいじゃないですか、それこそ自分の物語的な。笑われてるのにウケてると思ってるし、お客が引いてるのに制圧してると思ってるし、勘違いする力がどうにか生き延びさせてくれましたね。
――その頃ですかね、「ヒップホップを勉強したほうがいいよ」って言われてたのは。
アフロ そうそうそう! そうでした。
――ヒップホップが好きではあったけど、そこまでどっぷりじゃないままで始めてたから、そういうアドバイスをされたんですね。
アフロ いまだにそうです。勉強してみようとは思ったんですけど、なんか俺のほうが偉いぞっていう気持ちがずっとあるんですよ。
――ラッパーっぽいじゃないですか。
アフロ ハハハハハ! ヒップホップより俺のほうが偉いからなって思っちゃってたんですよね、なんかこっちの熱のほうが、人間さまの情熱のほうが偉いに決まってんだろ、みたいな。だから武道館とかに対しても、なに建物が人間より偉そうにしてんだよっていう気持ちがあったりして。音楽が一番とかヒップホップが一番っていうよりも、もうちょっと人が何かしようとしてる衝動みたいなほうに信仰を向けたかったのはあったっすね。
――それでいて、まったく集客もないようなときから自信はあったわけじゃないですか。
アフロ そこは幸か不幸かそういうもんだと思ってたんですよ。ないくせにあるってハッタリでも言い続けるべきなんだって、それはヒップホップから学び得たのかな。だから実際、自信なくてもとにかくデカい志をラップすることによって、ラップするということは自分の耳で聴くっていうことなんで、これが言霊っていうものの正体だと思うんですよ。
――自己暗示で自分をそこに近付けていく。
アフロ そう! まさに。でも、実はちっちゃい目標しか持ってなかったんですよ。そのときから武道館だなんだって言ってたけど、実際はCDの1枚も出したら子供に「お父さんラップやってたんだよ」っていつか言えるな、ぐらいの志しかホントはなかったはず。でも、ラップする人間って志デカく持ってラップしなきゃいけないんだと思ってそういうリリックを書いてやってたら、だんだんその気になって。異常なまでの熱量をよくここまで継続したなと思います。やっぱりもうダメそうなタイミングで誉めてくれる人が現れたりしたのはありがたかったですね。
取材・文/吉田豪
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撮影/河西遼
アフロ プロフィール
1988年生まれ。長野県出身。08年に高校の同級生だったUKとともにMOROHAを結成。10年に1stアルバム『MOROHA』でデビュー。22年には初の日本武道館単独公演を行う。24年12月21日のツアー最終公演で活動休止を発表。25年12月27日に渋谷・Spotify O-EASTにて、アフロ自主企画「再就職」を開催予定。
記事注釈
(注1)『宮本から君へ』…漫画家・新井英樹の連載デビュー作。『モーニング』で90〜94年に連載。18年に主演・池松壮亮でドラマ化され、MOROHAの『革命』がエンディングテーマで採用された。19年には映画化もされている。
(注2)新井英樹…63年生まれの漫画家。代表作は『宮本から君へ』『愛しのアイリーン』『ザ・ワールド・イズ・マイン』『キーチ!!』など。『MOROHA II』『MOROHA IV』のジャケットイラストを手掛けている
(注3)安達哲…68年生まれ。代表作は『さくらの唄』『お天気お姉さん』『バカ姉弟』など。
(注4)UK…87年生まれ。MOROHAではアコースティックギターを担当
(注5)曽我部恵一…71年生まれ。90年代初頭よりサニーデイ・サービスとして活動を始める。10年の『SUMMER SONIC』出演オーディションでは、MOROHAを高く評価し、曽我部恵一賞を授与。その後、曽我部の主宰するROSE RECORDSからMOROHAの1stアルバムをリリース。
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