【追悼・永島勝司】週刊ゴング元編集長・金沢克彦が語る「“新日vsU”伝説の裏に暗躍した仕掛け人」(後編)

写真提供/平工幸雄
“平成の仕掛け人”としてアントニオ猪木とともに新日に一時代を築いた永島勝司が、今年2月に亡くなった。そこでBUBKAでは「週刊ゴング」元編集長の金沢克彦にインタビューを実施。後編となる今回は、新日vsインターの裏側、新日からの失脚、そしてWJプロレスの旗揚げまで、永島が築いた平成プロレスの激動を振り返ってもらった。
「墓にクソ」発言の裏側
――前編で話していただいた95年の北朝鮮『平和の祭典』は、成功したものの新日本プロレスは持ち出しが多すぎて大きな借金を背負ってしまったわけですけど、それによってまさかのUWFインターナショナルとの対抗戦が実現するわけですよね。
金沢克彦(以下、金沢):ウルトラCですよね。新日本とUインターは本当に犬猿の仲で、対抗戦なんてとてもじゃないけど実現するわけがなかったのに、お互いのビジネスが一致したことで、最高のタイミングで実現した。だからこそ歴史に残る大会になったし。
――あの2年ぐらい前には、長州力がUインターの宮戸優光に対して、「あいつがくたばったら、墓にクソぶっかけてやる!」って言ってたくらいですからね(笑)。
金沢::あの「クソぶっかけてやる」っていうのは、本当は表に出るべき言葉じゃなかったんですよ。
――そうなんですか?
金沢:あれの発端は、『ゴング』の増刊号でやった蝶野正洋インタビューでの「髙田(延彦)さんとやってみたい」という発言の言葉尻を捉えて、宮戸選手たちがルー・テーズさんを引き連れて、新日本の事務所に対戦表明に来たわけですよね。
――当時人気の『進め!電波少年』ばりのアポなし訪問で(笑)。
金沢:あの頃、蝶野はNWA世界ヘビー級チャンピオンだったんで、新日本からすると、蝶野に挑戦したいなら条件があると。それがリスク料3000万円を支払った上で、新日本とUインターの代表4人が巌流島でバトルロイヤルをやって、勝ち残った人間が1・4東京ドームで蝶野に挑戦するというものだった。
――早すぎたアルティメット・ロワイヤルというか(笑)。
金沢:でも、あれはUインター側が受けたら、新日本は本当にやるつもりだったんですよ。Uインター側は髙田、山崎(一夫)を含めた4人を出せという条件で、新日本は表には情報を出してなかったけれど、長州力、マサ斎藤、橋本真也、佐々木健介の4人が行くっていうふうに決めてたんです。
――ある意味、実際の10・9東京ドームよりおもしろそうじゃないですか(笑)。
金沢:言い出しっぺの長州さんはもちろん、マサさんなんかもやる気十分でしたからね。で、健介も言われて「やります」と答えて、橋本は「ちょっと1日考えさせてください」って言ったけど、最終的には「やりましょう」と言ったので、やる準備は整ってたんです。でも結局、Uインターは断って交渉決裂したわけだけど、口外しないはずだった交渉内容を宮戸、安生の両選手がしゃべっちゃったじゃないですか。
――長州が「あいつら、こっちが条件出して受けてやると言ったのに受けなかった」と、要は「逃げた」的な感じで言ったんで、宮戸が「こんなひどい条件だったんですよ」と暴露したんですよね。
金沢:それで長州さんがすごい怒って、地方のテレビマッチの試合前に急きょ会見をやったんですよ。「あいつらは信用できない」「もう関わりたくもない」みたいなことを言って。それで会見の最後の捨て台詞として「宮戸の野郎、あいつがくたばったら墓にクソぶっかけてやる」って言ったんです。
――そういうタイミングだったんですね。
金沢:で、それを横で聞いていたサブの現場監督だった馳(浩)先生が、「皆さん、最後の一言は非常に不適切な発言なので、これは書かないでください。お願いします」って言ったんで、どこの媒体も書かなかったんですよ。ところが『週プロ』だけは書きましたよね(笑)。
――ターザン山本がGOを出したんでしょうね(笑)。
金沢:当時の週プロは、スクープを全部ゴングに取られるから、よくそういう“反則”を使ってきたんですよ。だから当時はボクも「またやりやがったな」と思ったんですけど、のちのち「いま思えば、週プロはよくやってくれたな」と思いましたね。だって、あれが名ゼリフとして残ったわけだから。もし週プロが書かなかったら、世の中に存在しない言葉になっていたので。
――じつに長州力らしい、言語感覚抜群の名ゼリフですよ。普通なら「くたばれ!」って言いそうなところ、たとえ死んでも許さず、「くたばったら墓にクソぶっかけてやる!」ですからね(笑)。
金沢:長州語録には「またぐなよ」とか「キレちゃいないよ」とか「ど真ん中」やコラコラ問答などいろいろありますけど、「墓にクソぶっかけてやる」はかなり上位に入ってくるでしょうね。
――そこまで長州力をマジギレさせた宮戸優光もすごいですけど。
金沢:あの時、長州さんがインタビューでポロッと言ったのが、「WCWと提携するのにいくらかかったと思ってんだ」ということだったんですよ。つまり、その意味は「NWAのベルトを取るのにいくら払ったと思ってんだ」と。
――だからこそ「リスク料3千万円」というのが出てきたわけですね。
金沢:それが本音なんですよ。当時は、近くで取材しているとそういうおもしろいことがいっぱいありましたね。
――みんな本気ですもんね。
金沢:本気だからこそ、それがビジネスに化けた時に爆発するというね。例えば、小川問題だってそうじゃないですか。小川直也はもともと坂口(征二)さんと同じ明治大学出身というルートでプロレス入りしたわけですけど、小川を自分の駒にしようとした猪木さんの仕掛けで、小川が坂口さんの胸ぐらをつかんで突き飛ばしましたよね。あの時の坂口さんの怒りはシュートですからね。
――あれで小川直也と坂口さんの関係は、本当にダメになっちゃったんですよね?
金沢:完全に壊れましたね。お歳暮で坂口家に小川直也からアイスクリームのセットが届いたけど、利子さん(坂口夫人)が怒って送り返したらしいですから(笑)。
――いちばん怒らせてはいけない人を怒らせてしまった(笑)。
金沢:福岡ドームで長州と小川のタッグ対決があった時も利子さんが来てたんですよ。宿泊先のホテルでたまたま小川と利子さんが鉢合わせになって、小川が会釈して通り過ぎようとしたら、利子さんが「ちょっと、あんたどういうつもりなのよ!」ってすごい勢いで迫って、小川がたじたじになったらしいですから。
――さすが坂口家最強と言われるだけありますね(笑)。
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