2022-10-05 18:00

西武ライオンズの清原和博を知ってるか?【第10回】

西武ライオンズの清原和博を知っているか?

PL学園の主砲として甲子園を沸かせた清原和博。1985年の運命のドラフトによって盟友桑田真澄は巨人に入団、憧れのチームに裏切られ忸怩たる思いを抱えながらも、18歳の清原は西武ライオンズ入りを決断。彼はここで野球キャリアの中でも最も華々しい活躍をすることになる。そんな彼がひとりの野球人として輝いていた西武ライオンズ時代約10年間を描いた『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(7月21日発売/白夜書房)よりお届けする。

001002003004005006007008009を読む)

1986年④
伝説の幕開け

みんなの弟キヨマーは、先輩投手の東尾修が死球を当てた助っ人デービスに4発ぶん殴られた6月13日の近鉄戦で右中間へ8号。王貞治の1年目7本を上回り、その後1カ月に渡り本塁打から遠ざかるも、7月13日の近鉄戦で初の2打席連発となる9号、10号。香川伸行が保持していたドラフト制後の高卒ルーキー最多本塁打を早くも更新する。前半戦終了時の成績は打率.258、11本塁打。ブロマイドやナンバーフラッグといった15種の清原グッズは全売り上げの5割近くを占め、テレホンカードは最初に4千枚、追加で4千枚作ったが、それぞれ発売直後に売り切れ。もちろん、オールスターファン投票では179160票とパ一塁手部門でぶっちぎりのトップ当選だ。シーズン・イン・ザ・サン。清原和博の夏物語が始まろうとしていた。

86年オールスター戦、記念写真で前列中央席にいた初出場の新人に対してロッテの稲尾和久監督が「20年早い!」と説教、そうしたら「はあ、そうですか」なんつってキヨマーが座り直した席は二列目の中央席だった。練習中に因縁の巨人・王監督の背中に向けてアカンベーをかますやんちゃさも健在だ。7月19日の第1戦は後楽園球場で行われ、清原は6回からブーマーに代わり「4番一塁」で出場すると、8回の先頭打者として巨人のサンチェから一塁強襲打。高卒ルーキー初の球宴安打を放つと、地元・大阪球場へ舞台を移した第2戦では、家族が見守る中、ホームラン競争で先輩たちを圧倒するスタンドインを連発し、試合では7回に遠藤一彦(大洋)の初球を狙って左翼席上段へ特大アーチ。見事、MVPに輝き、新・お祭り男がスポットライトを独占する。2軍若手が集うジュニアオールスターで、勝利チーム投手賞のささやかなトロフィーを受け取った桑田を突き放した瞬間でもあった。

試合後はPL時代の友人と遊び、明け方の朝4時頃に久しぶりに岸和田の実家へ顔を出して、母親にメシを作ってくれと頼む。おふくろの味の手作りうどんをキヨマーは、うまい、うまいと言いながら食べた。数時間前まで、日本中を熱狂させたポップスターが食べる一杯のかけうどん。それは大人と子供が同居する18歳・清原和博のアンバランスさの象徴だ。愛息と青春の旅立ち。報道陣に囲まれ家を出る息子に「ハンカチを持っていきなさい」と言いかけたのをグッとこらえる母の姿があった。

恐ろしいスピードで成長し続ける怪物スラッガー。球宴後、清原のバットはさらに加速する。中西太の12号、張本勲の13号といったビッグネームたちが持つ新人記録を次から次へと抜き去り、19歳の誕生日翌日、8月19日の近鉄戦で榎本喜八に並ぶ16号を放つ。25日の日本ハム戦で津野浩からバックスクリーン右へ特大の17号アーチで、高卒ルーキー本塁打の単独2位に浮上。夏休み終盤、チームは2引き分けを挟む10連勝もあり近鉄から奪首。この頃、少年ファンたちは石井明美が歌う妙に生々しい「CHA-CHA-CHA」から大人の世界を垣間見て、キヨマーの記録挑戦を通して昭和の大打者やプロ野球史を学んだ。

8月31日の南海戦で月間8本目の第20号。休養日は、同期入団の岡田展和と西武園ゆうえんちでジェットコースターに乗って遊び気分転換しつつ、9月6日の近鉄戦でプロ初の満塁弾に続き、バックスクリーンにぶち当てる特大の22号アーチで1試合6打点をマークした。9月14日にはシーズン100安打目を記録、「二千本まであと千九百本ですね」なんて型破りなコメントで報道陣を喜ばせ、16日の南海戦であっさり高卒新人タイ記録の27号を左翼スタンド上段へ。27日、西武球場での天王山・近鉄戦で左のエース小野和義から28、29号を放ち、長嶋茂雄の1年目に並ぶ。高卒ホームラン記録を抜かれた豊田泰光も「打撃がうますぎるのがむしろ不満」と完全に脱帽。9月は打率.364、9本塁打、23打点の活躍で月間MVPにも輝いた。

もちろん老若男女がキヨマーに恋に落ちた。『週刊宝石』86年10月17日号には特集記事「桑田、清原の性熟度を見分ける多摩川ギャル所沢ギャルの選球眼」が掲載されているが、街で噂の辛くちセクシー・ギャルの熱狂ぶりがクレイジーだ。「セックスアピールがあるわ。練習中に彼が上のボタンをほとんどはずしたときに胸をみたら、はっきり分かるほど胸毛があるのね。それからあのドンとしたお尻。腰のふり方なんて秋山さんよりセクシー」とか、「男の人ってアレの先が右に行ったり、左に行ったりするでしょ。清原クンの場合、右に行ってたら右、左に行ってたら左にホームランするのよ」なんてよく読んだら8割方チンチンの話というとんでもないセクハラトークをかます。

10月5日の南海戦で30号到達。翌日の教室の話題は、キヨマーの特大アーチと前夜に第1回が放送されたドラマ『あぶない刑事』で持ち切りだった。7日のロッテ戦、ついにプロ初の4番に抜擢され、雨の川崎球場で新人タイ記録の31号を左翼席へ運ぶ。西武はその2日後、本拠地でロッテ相手に工藤公康が完封勝利、近鉄に競り勝ち129試合目にV2を達成した。春まで高校生だった背番号3の最終成績は、打率.304、31本塁打、78打点。パ・リーグ初の観客600万人突破、西武は球団新記録の166万人超え。清原効果は長年不人気に喘ぐリーグ全体の観客数を一気に押し上げた。

1986年、確かにひとりの新人選手がプロ野球界を変えてしまったのである。それは事件であり、革命であり、伝説の始まりだった。

…つづく

キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー Kindle版
Amazonで購入

Twitterでシェア

関連記事

MAGAZINE&BOOKS

BUBKA2025年5月号

BUBKA 2025年5月号

BUBKA RANKING5:30更新

  1. プロレス・木村健悟「藤波は童顔でかわいらしい顔して、まだ身体も細かったから『絶対に俺のほうが強いだろ』と思ってたよ」
  2. プロレスラー秋山準、デビューから丸30年…伝説の四天王プロレスを振り返る
  3. SKE48荒井優希選手、鈴芽選手に勝利し“ベルト挑戦”を宣言
  4. SKE48荒井優希&宮本もか“もかゆき”コンビ、決勝戦進出ならず
  5. 【追悼・永島勝司】週刊ゴング元編集長・金沢克彦が語る「“新日vsU”伝説の裏に暗躍した仕掛け人」(後編)
  6. SKE48荒井優希選手、デビュー1周年のメモリアルマッチを白星で飾る「まだ1年…もっともっと成長していけるように」
  7. SKE48荒井優希「プロレス界でももっと1番を狙っていけるように」渡辺未詩とのタッグで勝利を収める
  8. SKE48荒井優希、初対戦のアジャコングに“一斗缶攻撃”も食らい完敗
  9. 【工藤めぐみインタビュー】長与に憧れ、ジャガーに習い、ダンプ松本に叱られて――辛く厳しかった時代の追憶
  10. SKE48荒井優希&赤井沙希“令和AA砲”がプリンセスタッグ王者のベルト初防衛に成功
  1. 祝『放送作家松田好花 リターンズ』放送決定!番組ディレクター・町田拓哉が語る、唯一無二のタレント性
  2. 乃木坂46岡本姫奈、ノースリーブで“さわやか”のハンバーグを食べる姿に「いっぱい食べる君が好き」「一緒に食べた気分になれる」の声
  3. 日向坂46五期生・坂井新奈、人生初ソロ表紙を飾る「感謝の気持ちでいっぱいです」
  4. 「帰ってきた放送作家」松田好花の無茶振りも効果なし! 日向坂46 二期生の自由すぎるノリを引き締める「ボケ収拾者」小坂菜緒の実績
  5. 今度は55分間に何度泣く!? 敏腕テレビマンに「この番組を作れるのは松田さんしかいない」とまで言わせた『放送作家松田好花』を改めて観返してみた
  6. 乃木坂46佐藤璃果、かき氷&ノースリーブの涼しげショットに「一緒に食べて暑さを忘れたい」「彼女といるみたい」の声
  7. 山本美月、アパガード40周年ブランドアンバサダーに就任!受賞理由を聞き「泣きそうになっちゃうくらいうれしい」
  8. 「寿司百貫」「一人時間差」大食いマイペース要素がさながら「“ひとり”からあげ姉妹」!?乃木坂46の「新天然素材」増田三莉音の魅力
  9. オードリー若林が絶賛する日向坂46松田好花のラジオ愛!“ネタ探し”ד構成力”ד準備力”の三拍子に春日俊彰も「たいしたもんだね」
  10. 『芸能人は歯が命』から30年…東幹久「あれですごく僕は認知された」