2022-09-29 18:00

西武ライオンズの清原和博を知ってるか?【第4回】

西武ライオンズの清原和博を知っているか?

PL学園の主砲として甲子園を沸かせた清原和博。1985年の運命のドラフトによって盟友桑田真澄は巨人に入団、憧れのチームに裏切られ忸怩たる思いを抱えながらも、18歳の清原は西武ライオンズ入りを決断。彼はここで野球キャリアの中でも最も華々しい活躍をすることになる。そんな彼がひとりの野球人として輝いていた西武ライオンズ時代約10年間を描いた『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(7月21日発売/白夜書房)よりお届けする。

001002003を読む)

1985年②
運命のドラフト。そして悲劇の結末へ

雑誌『セブンティーン』85年8月20日号には「桑田くんvs清原くん どっちもステキどっちもスゴイ」なんてこちらも緊張感皆無の特集記事が組まれている。チェッカーズ、吉川晃司、男闘呼組と並び、すてきボーイズとして取り上げられるキラキラのアイドル球児。「試験に出る桑田くん清原くん」アンケートコーナーで、清原くんは野球をはじめたキッカケを「小3のとき。なんとなくリトルのテスト受けたらパス。あれで人生きまった」と真面目に答える一方で、趣味は「音楽鑑賞。それも、明菜がいっちゃん好きやね。歌うまいもん」、好きなTV番組は「歌番組かな。ザ・ベストテンとかね。明菜の出てるんやったら、みんな見る」なんつってサービス精神満点でジャイアンツ愛より中森明菜愛をひたすら強調。その一方で、桑田くんが大切にしているものは「去年の夏、知り合いからもろた王さんのサイン色紙。毎日ながめてまぁ~す」とさりげなく数カ月後の喧噪を予感させる、衝撃のガチンコ発言をしているのも興味深い。

予兆は確かにあった。強行指名は「なんでや!」じゃなく「本当にやりやがった!」である。決して巨人が桑田を何の前触れもなく、想定外の1位指名をしたわけではないのだ。現に『PLの桑田、清原を狙う巨人スカウトのマル秘作戦』(『週刊サンケイ』85年8月8日号)というような記事はかなり早い段階で週刊誌上を賑わせていた。PL学園の野球部は厳しいセレクションを通過したものだけ入部が許される狭き門だが、この春は地元の少年野球チーム「ナニワ・ボーイズ」から3名もの選手が送り込まれている。立浪和義(87年中日ドラフト1位)、橋本清(87年巨人ドラフト1位)、そしてキャッチャーのI君だ。このI君は巨人現役スカウト部次長の息子だった。もちろんIスカウトは陰でコソコソしないと否定するが、実際にKKコンビの家族ともPL野球部の父兄として堂々と接触できるわけだ。

リアルとフェイクの狭間で繰り広げられる情報戦。清原は希望球団から指名されなかった保険として、日本生命の就職を内定させている。桑田の父親も、マスコミに対し「プロに行く可能性がまったくないとは言えない」と匂わせ、可能性のある球団として「巨人」を挙げた。きな臭い雰囲気の中、『清原は巨人、桑田は早稲田しか日本球界を救う道はない』(『週刊現代』85年11月9日号)では、某巨人事情通という立ち位置不明な謎の人物のコメントを紹介。「清原がクジで当たらなかった場合の桑田指名もありえます。桑田は巨人ファンで、『巨人なら行きたい』と知人にもらしたこともあるんですから」と語り、「ドラフト会議は11月20日。早大特別選抜の受付が7日から15日までで、試験は24日。だから、もし桑田が早大に申し込みだけして、ドラフトで巨人に指名され、巨人入りを表明して、11月24日の試験を受けないという手も、やろうと思えばできるわけだ」とまで詳細を書いている。この手法、まさに桑田がドラフト後に取った行動とほぼ同じ。野球は筋書きのないドラマって、いやいやその筋書きめっちゃバレてるから……。

しかも、9月にはドラフトについて聞かれた王監督が「清原君は素晴らしい素材だけれど少し時間がかかる。できれば即戦力のピッチャーが欲しい」とつい口をすべらせたことを受け、スポーツ新聞各紙が“巨人、長富浩志(NTT関東)獲得へ”と大々的に報じていた。それを見て怒り焦った読売は、系列紙の報知新聞9月24日付一面に「清原だ!王ラブコール」とかまさせた。

さすがに清原サイドもこれらの流れには危機感を覚えたのだろう。11月14日、PL学園へ挨拶に訪れた巨人Iスカウト部次長と清原一家は1時間半にも及ぶ会談を行ったが、最後まで「必ず1位に」という確約はもらえなかった。半信半疑の清原の母が「巨人はドラフト当日に1位指名選手を誰にするか決定するというのは本当なのでしょうか?」と尋ねると、「それが巨人の方針ですから」と返されたという。海千山千の大人たちの前で、18歳の清原和博はあまりに無邪気で無防備だった。もう少しお互いのことを利用できるほどタフだったら、また違った展開があっただろう。「昨日は阪神のスカウトからこう褒められた。今日はどこのスカウトと会う」なんて休み時間に教室のクラスメートたちに逐一報告し盛り上がる等身大のキヨマー。その様子を横目で見ていたのが、最後まで自分の本心を誰にも明かさず、たったひとりの仮面舞踏会に臨んだ桑田である。

キャラクターや性格含めあまりに対照的で、同時代に同級生として出会ったふたりの規格外の天才。皮肉なことに彼らはともに夢を見て同じハッピーエンドを迎えるには、野球の才能に恵まれすぎた。その栄光に彩られた高校生活の悲劇の結末は、突然ではなく、必然だったのかもしれない。85年11月20日午後11時13分、東京・九段下のホテルグランドパレス会場に、司会のパンチョ伊東の声が鳴り響いた。これが、終わりの始まりか──。

第一回選択希望選手、読売、桑田真澄、17歳投手、PL学園高校。

…つづく

キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー Kindle版
Amazonで購入

Twitterでシェア

関連記事

MAGAZINE&BOOKS

BUBKA2025年5月号

BUBKA 2025年5月号

BUBKA RANKING5:30更新

  1. プロレス・木村健悟「藤波は童顔でかわいらしい顔して、まだ身体も細かったから『絶対に俺のほうが強いだろ』と思ってたよ」
  2. プロレスラー秋山準、デビューから丸30年…伝説の四天王プロレスを振り返る
  3. SKE48荒井優希選手、鈴芽選手に勝利し“ベルト挑戦”を宣言
  4. SKE48荒井優希&宮本もか“もかゆき”コンビ、決勝戦進出ならず
  5. 【追悼・永島勝司】週刊ゴング元編集長・金沢克彦が語る「“新日vsU”伝説の裏に暗躍した仕掛け人」(後編)
  6. SKE48荒井優希選手、デビュー1周年のメモリアルマッチを白星で飾る「まだ1年…もっともっと成長していけるように」
  7. SKE48荒井優希「プロレス界でももっと1番を狙っていけるように」渡辺未詩とのタッグで勝利を収める
  8. SKE48荒井優希、初対戦のアジャコングに“一斗缶攻撃”も食らい完敗
  9. 【工藤めぐみインタビュー】長与に憧れ、ジャガーに習い、ダンプ松本に叱られて――辛く厳しかった時代の追憶
  10. SKE48荒井優希&赤井沙希“令和AA砲”がプリンセスタッグ王者のベルト初防衛に成功
  1. 祝『放送作家松田好花 リターンズ』放送決定!番組ディレクター・町田拓哉が語る、唯一無二のタレント性
  2. 乃木坂46岡本姫奈、ノースリーブで“さわやか”のハンバーグを食べる姿に「いっぱい食べる君が好き」「一緒に食べた気分になれる」の声
  3. 日向坂46五期生・坂井新奈、人生初ソロ表紙を飾る「感謝の気持ちでいっぱいです」
  4. 「帰ってきた放送作家」松田好花の無茶振りも効果なし! 日向坂46 二期生の自由すぎるノリを引き締める「ボケ収拾者」小坂菜緒の実績
  5. 今度は55分間に何度泣く!? 敏腕テレビマンに「この番組を作れるのは松田さんしかいない」とまで言わせた『放送作家松田好花』を改めて観返してみた
  6. 乃木坂46佐藤璃果、かき氷&ノースリーブの涼しげショットに「一緒に食べて暑さを忘れたい」「彼女といるみたい」の声
  7. 山本美月、アパガード40周年ブランドアンバサダーに就任!受賞理由を聞き「泣きそうになっちゃうくらいうれしい」
  8. 「寿司百貫」「一人時間差」大食いマイペース要素がさながら「“ひとり”からあげ姉妹」!?乃木坂46の「新天然素材」増田三莉音の魅力
  9. オードリー若林が絶賛する日向坂46松田好花のラジオ愛!“ネタ探し”ד構成力”ד準備力”の三拍子に春日俊彰も「たいしたもんだね」
  10. 『芸能人は歯が命』から30年…東幹久「あれですごく僕は認知された」