演歌歌手・辰巳ゆうと、黒沢薫と“青春ユニゾン” 中西アルノとは湿度系アドリブ合戦も

ゴスペラーズの黒沢 薫と乃木坂46の中西アルノがMCを務める音楽番組『Spicy Sessions(スパイシーセッションズ)』が、CS放送「TBSチャンネル1最新ドラマ・音楽・映画」にて毎月放送中。9月26日(土)放送の『Spicy Sessions with辰巳ゆうと』の収録を、ゴスペラーズをデビュー当時からよく知り、数々のアーティストのオフィシャルライターを務める音楽ライターの伊藤亜希氏が取材。今回、そのオフィシャルリポートが到着した。
黒沢 薫(ゴスペラーズ)と中西アルノ(乃木坂46)がMCを務める『Spicy Sessions』は、ゲストのルーツや音楽観を掘り下げながら、生バンドとともにセッションを繰り広げる、“刺激的”な音楽番組。ゲストが変われば、その音楽的なルーツも、歌いたい曲も変わる。ゲストとの事前の打ち合わせから浮かび上がった楽曲を取り上げ、本番中に歌割りやアレンジを組み立てながら、その人とだからこそ生まれるセッションを立ち上げていく。いわば毎回、ゲストを起点に番組そのものが姿を変えていくのが『Spicy Sessions』だ。
第30回のゲストは、演歌歌手の辰巳ゆうと。演歌だけに留まらず、さまざまなジャンルでその歌声を響かせる、若手演歌界を代表する歌い手だ。バンドが登場し、オープニングのバンドセッションへ。ギターとピアノが“泣き”の空気をまとったフレーズと音色を聴かせる。泣きに寄りすぎず、ハードロック的なムードをサウンドにまとわせたのはさすがだ。
黒沢と中西から紹介されて登場した辰巳。「人は1人じゃなく、支え合いながら生きていこうというポジティブな内容が歌詞に込められていて。演歌とはちょっと違ったロックのノリを取り入れた、カッコいい曲になっています」と、最新曲「ロンリー・ジェネレーション」を。アップチューンのリズムに合わせて、会場がカラフルなライティングで彩られていく。<キスで眠れ>という歌詞に合わせて、辰巳は笑顔で右手を客席に向け、指先でピストルを作り、バキューンというパフォーマンスを見せた。歌唱後、「フレッシュ!」と拍手を送る黒沢。中西は、演歌はハードルが高いイメージだったと前置きし、「でもこんなイケイケというか、本当にキラキラで、私が知ってる演歌が進化してると思いました」と語った。


トークコーナーでは、辰巳が「いろんな方からすごい番組があるぞと聞いていた」と『Spicy Sessions』の印象についてコメント。さらに、音楽番組の収録で事前に打ち合わせをするのは初めてだったと話した。トークは辰巳のルーツに展開していく。祖父母がカラオケ喫茶好きだったことから、幼い頃から演歌に親しみ、物心がついた頃にはマイクを手に歌っていたと話す辰巳。変声期を迎えた中学1年の時に、ある思いを胸に応募した「ティーンズカラオケ大会」での優勝をきっかけに、デビューへ向けたレッスンを開始した。
小学生の頃は、友人たちと話を合わせるため、平日はJ-POP、土日は演歌を聴く生活を送っていたという。特に思い入れのある曲として、TBS系ドラマ『ROOKIES』(2008年)の主題歌「キセキ」(GReeeeN/現・GRe4N BOYZ)を挙げた。クラスで『ROOKIES』の話題についていくため、「キセキ」をクラスメイトと歌うため、辰巳少年はどんな努力をしていたのか。
その流れで辰巳が黒沢とのセッション曲に選んだのは「キセキ」。辰巳も黒沢も人前で歌うのは初めてという1曲だ。「ドキドキしてます」という辰巳の言葉に「大丈夫です。間違ったらやり直せます」と黒沢。それに辰巳は「いいんですか! 夢のような」と返し、会場は笑いに包まれた。ステージに譜面が運ばれてくる。どちらがどこを歌うのか、ユニゾンにするのか、ハーモニーをどう重ねるのかを相談していく。バンドメンバーも会話に加わり、その場でアレンジの輪郭が出来上がっていく。そんな中、黒沢が「GRe4N BOYZと言えばユニゾンな気がするんですよ」と、辰巳にユニゾンで歌うパートを提案。その後、ユニゾンは青春、と話が転がり「ハモってばっかりじゃダメです。ユニゾンもしなきゃいけない」と再び会場を笑わせた。
「キセキ」へ。「ロンリー・ジェネレーション」で聴かせた声とはまた違う辰巳が現れる。ステージバックに吊るされた『Spicy Sessions』のロゴがグリーンに染まる。辰巳は真っすぐなメロディーに沿ってストレートに言葉を運ぶ。その声を黒沢のボーカルが受け止め、2人の声が重なることで楽曲に厚みが生まれていく。幼い頃に友人たちと歌っていた曲を、現在はプロの歌い手として黒沢と歌う。辰巳が過ごしてきた音楽との時間までが、セッションの中で一つにつながっていくようだった。



続くトークでは、辰巳のルーツをさらに深掘りする。MC2人の言葉によって、聴く前に楽曲の解像度が上がるのも『Spicy Sessions』ならではの醍醐味(だいごみ)だ。私事で恐縮だが『Spicy Sessions』の収録が終わった後は、解像度が高くなった状態で、ディグることが常になってしまった。これまでとは明らかに違う発見があるからだ。新しい音楽の楽しみ方をまた一つ、この番組が教えてくれたのである。
話を戻そう。大学進学を機に大阪から上京した辰巳は、事務所からの提案でストリートライブを始める。「演歌でストリートライブ、それはハードル高いよ?」と、ゴスペラーズとしてストリートライブを重ねた黒沢が返す。辰巳は「本当に心が折れましたね」と本音を吐露した後、それでも歌い続ける中で、1人が立ち止まり、その1人が友人を連れてきて2人になり、2人になったら他の通行人も立ち止まるようになった。最終的には30~40人くらいの観客を集められるようになっていたと話した。さらに、楽器を演奏しないからこそ、楽器を手に歌うバンドマンへの憧れもあったという辰巳。ONE OK ROCKやゆずなど、J-POPの男性アーティストを聴くことも多かった。一方で“どハマり”しているアーティストとして名前を挙げたのがaiko。自身のライブでカバーすることもあるという。


テレビでは女性曲を歌う機会があまりないからこそ、挑戦してみたいという理由で選んだのはaikoの「ボーイフレンド」。セッションのパートナーは中西だ。辰巳と中西は、譜面を見ながら歌割りを決めていく。原曲の魅力を残しつつ、男性と女性という異なる声をどう組み合わせるか。ユニゾンやハーモニーの位置を確認し、バンドとも言葉を交わしながらアレンジを組み立てていく。
「ボーイフレンド」を実際に歌い始めると、また辰巳の声の表情が変わる。そして中西は、意外にもaiko特有の湿度を感じさせるニュアンスでメロディーを運んでいった。キャッチーでありながら朝露のような湿度を含んだメロディーと、モータウン調のリズム。観客からも自然にクラップが起こる。アウトロでは、辰巳と中西がアドリブ合戦を見せた。中西があれだけ自分を前に出したアドリブ合戦は『Spicy Sessions』の3年近いの歴史の中でも非常に珍しい。



黒沢が、辰巳と一緒に歌いたいとリクエストしたのは、石川さゆりの「天城越え」。黒沢の口からタイトルが告げられると、客席から「おぉ~!」と喜びの声が上がる。辰巳も大好きな曲だと言い、「好きすぎて本当に“天城越え”をしたことがある」と話す。演歌歌手とR&B/ソウルをバックグラウンドに持つシンガー。異なるフィールドを歩んできた2人が、日本を代表する演歌の名曲に向き合った。歌い出した瞬間、辰巳はまた違った歌声を放つ。声に宿る情念。演歌歌手としての技術が、ここでは楽曲の中から自然に滲み出てくる。一方の黒沢も、自身のボーカルスタイルを保ったまま楽曲へ入っていく。そしてサビの<天城越え>では、演歌に寄せたこぶし回しを見せる。男性ボーカル2人が「天城越え」をセッションする。他の番組では絶対に見られない『Spicy Sessions』の存在意義が鳴り響いていたように思う。

番組の最後を締めくくるのはMCの歌唱。今回は中西が、あいみょんの「恋をしたから」をソロで披露することに。セレクトした理由を黒沢に問われた中西は、最近は「言葉を伝えていく歌」を歌うのがマイブームだと言い、この曲を選んだと答えた。静かな歌い出しから、言葉を一つずつ、聴き手に丁寧に手渡すように歌声を紡いでいく。歌詞に宿る心の揺らぎを声の濃淡へと置き換えていくようなアプローチ。曲が進むにつれて、その声には少しずつ切実さがにじみ、最後には寂しさの中にある包容力を感じるほどで、ただ聴いているだけで、自分の中の淀みが浄化されていくようだった。

ジャンルという境界線を越えるたび、歌い手の中にある別の表情が引き出されていく。黒沢 薫と中西アルノという許容範囲の広い2人がそろっているからこそ、『Spicy Sessions』は、いつでもジャンルを越え、音楽の中にある新たなファクターをわれわれに提示してくれる。だから毎回、フレッシュで刺激的なのだ。
■『Spicy Sessions with辰巳ゆうと』
9月26日(土)午後11時30分~深夜0時30分
取材/文=伊藤亜希
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