2023-05-01 06:10

田村潔司「解析UWF」第8回…UWFのあり方

1993年9月、パンクラス旗揚げ戦で稲垣克臣を下した鈴木みのる
1993年9月、パンクラス旗揚げ戦で稲垣克臣を下した鈴木みのる
写真提供=平工幸雄

UWFの分裂後、田村の先輩であった船木・鈴木が中心となって生まれた新団体・パンクラス。実力主義による闘いを標榜し行われた旗揚げ戦での「秒殺」の決着は、驚きと称賛を持って格闘技ファンに受け入れられていった。そんなライバル団体を見つめ田村が感じたこと、そしてUWFのあり方を振り返る。

パンクラスの試合を観て率直に思ったことは はたして、これはお客さんに伝わるのか?

1993年、UWF系にとって大きな出来事があった。

船木誠勝さん、鈴木みのるさんが中心となって新団体パンクラスが設立され、9月21日、東京ベイ・NKホールで旗揚げ戦が行われたのだ。

ボクとパンクラスの旗揚げメンバーである船木さん、鈴木さん、冨宅飛駈との関わりは深い。

ボクは1988年に第1回入門テストに合格して新生UWFに入門。当初はたったひとりの新弟子(練習生)でいちばん下っ端だったので、上下関係が厳しいあの時代、先輩たちとの会話でボクが使う言葉は「はい」「いいえ」のみ。本当に日本語を忘れそうになるほど、何も言えない状況だった。それが変わっていったのは、1989年4月に船木さん、鈴木さんが新日本プロレスから移籍してきてから。

新生UWFの1年目は、前田日明さん、髙田延彦さん、山崎一夫さんの“前高山”と、中野龍雄さん、安生洋二さん、宮戸優光さんの“三羽烏”の間には、“上3人”と“下3人”という目に見えない明確な格差があったけれど、新日本育ちで前田さんたちの直の後輩ではない船木さんと鈴木さんは、世代的には“三羽烏”側でありながら“前高山”にも一定の礼儀を踏まえた上でモノを言えたので、UWF内の風通しがすごく良くなった。

そして船木さんと鈴木さんは、業界的にはボクの先輩になるけれど、UWFという団体に入ったのはボクのほうが先になるので、その部分を尊重してもらえた気がする。道場で毎日稽古をつけてもらうだけでなく、プライベートで食事や遊びに連れて行ってもらったり、すごくかわいがっていただいた。その後、カッキー(垣原賢人)、冨宅が入門してくると、船木、鈴木、田村、垣原、冨宅の5人がグループみたいな感じになって、一緒に厳しい練習をして、練習後はファミレスでバカ話から真面目な話までいろんな話をして、すごく楽しかった。いい青春だったと思う。

だから1991年1月に新生UWFが解散して、プロレスに対する考え方や方向性の違いから船木さん、鈴木さん、冨宅はプロフェッショナルレスリング藤原組、ボクとカッキーはUWFインターナショナルと、別々の道を歩むことになったけれど、プライベートな交流は続いていて、藤原組の試合会場にも何度か観に行って刺激をもらっていた。

そんな船木さんたちが藤原喜明さんのもとを離れ、自分だけで新団体を作ると聞いた時は、いったいどんな試合をやるのかワクワクして、NKホールの旗揚げ戦もカッキーと一緒に観に行かせてもらった。

パンクラス旗揚げ戦で行われた試合は、これまでのUWF系とは毛色の違うものだった。すべての試合がいわゆる“秒殺”の短時間決着。全5試合の合計試合時間がわずか13分5秒という異例の短さ。

この結果を受けてマスコミは「UWF最後の扉を開いた」「衝撃の全試合秒殺決着」とセンセーショナルに書き立て大きな話題になったけれど、実際に会場で全試合を観たボクの率直な感想は、「これは面白いのか?」というものだった。それはボク自身がパンクラスの試合を観て、面白かったか面白くなかったかということより、「はたして、これはお客さんに伝わるのか?」という疑問のほうが大きかったように思う。

ボクらUWFのプロフェッショナルレスラーは、お客さんに見せるためにリング上で闘っている。だから、ボクらは若手の頃から強くなることと同じくらい、お客さんを満足させる試合をすることを叩き込まれてきた。そのUWFにおける観客論の存在は、この連載でも何度か語らせてもらったとおりだ。

だからボクには「ただ勝つだけではいけないのがUWF」という思いがある。これは同じ“興行”である大相撲の考え方に近い。大相撲は勝つことと同時に“いい相撲”を取ることが求められる。「ただ勝ちゃいい」わけではないのだ。

だけどパンクラス旗揚げ戦の試合は、「ただ勝ちゃいい」ように見えた。この連載の1回目でも述べたとおり、ただ勝った負けただけの格闘技ならレベルの差こそあれ誰でもできる。もちろんパンクラスの選手たちの技術レベルは、当時としてかなり高いものだったと思うし、船木さんや鈴木さんの強さもボクはよく知っている。そして、スポット的にパンクラスのような試合があってもいいとは思うけど、あれを毎回見せることには疑問があった。いちばん大事な部分が抜け落ちているような気がした。

たとえば、ボクがUインターで初めて桜庭和志とやった試合(96年3月1日、日本武道館)は、ある意味でパンクラスと同じ類の試合だけど、お客さんとして観た場合、パンクラスの秒殺よりも田村vs桜庭の方が絶対におもしろいと思っている。だからボクは、あの日のNKホールでパンクラス旗揚げ戦を観て、「船木さんと鈴木さんはすごい団体を作ったな」という思いと同時に、「お客さんに伝わるのか?」と感じた。

取材・文=堀江ガンツ

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田村 潔司=たむら・きよし|1969年12月17日生まれ、岡山県出身。1988年に第2次UWFに入団。翌年の鈴木実(現・みのる)戦でデビュー。その後UWFインターナショナルに移籍し。95年にはK-1のリングに上がり、パトリック・スミスと対戦。96年にはリングスに移籍し、02年にはPRIDEに参戦するなど、総合格闘技で活躍した「孤高の天才」。現在は新団体GLEATのエクゼクティブディレクターを務めている。

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